第13話

 そしてそれを見越していたジュリアが水から4人の身を守るべく土魔法で壁を作ろうとする。


 だけど、そんなことはさせないわ!


 私は咄嗟に闇魔法のディスペルという魔法を解除するための魔法を放った。


「え!?!?」


 魔法が不発に終わったことに動揺するジュリア。


 そして無事に皆に水がかかる。


 するとなんということでしょう。着ていた洋服たちが見事に水で透け、3人共えっちい姿になっているではないですか!


 ちなみに私も濡れたので透けてしまったのだけれど、それはそれで眼福なのでオッケーです。


 いやあ絶景絶景。


「すみません……防御の為の魔法を失敗してしまいました!」


 あ、やば。ジュリアの事考えてなかった。そりゃそうじゃん。責任感じるに決まってるじゃん。


 でもエドワードにディスペルの隠蔽方法を習って、ジュリアの魔法をバレないように打ち消しました!なんて言えないし……


「別に大丈夫よ!どうせ最後はこうやって遊ぶ予定だったんだから。責任を感じるのなら、それ!」


 フランチェスカがジュリアの背後に回り、お姫様抱っこで抱え上げて海に放り投げた。


「これでおあいこ!かかってきなさい!」


「フランチェスカさん……!」


 ジュリアは自分がされたことを理解し、反撃をしようと海に向けて魔法を放った。


 選んだのは初歩の風魔法、ウィンド。


 その魔法は的確に水を持ち上げ、フランチェスカだけを濡らすことに成功した。


「やったわね!」


 それに対しフランチェスカも魔法で応戦を試みていた。


 フランチェスカ、神対応じゃん……


 やっぱりめちゃくちゃ良い子じゃない!好き!!!!!


「どうします?」


 完全に置いて行かれたマルゲリータは、同じく置いて行かれた私にそう尋ねてきた。


「そうね、参戦しましょうか。単に遊んでいるように見えるけど、アレはアレで魔法をコントロールする良い訓練になるのは間違いないから」


「そうですね、では早速!」


 ちょいちょいちょいちょい!!君どれだけ魔力を込めようとしているのかな!?


「ちょっと待ちなさい。それだとあの二人が巻き込まれて流されるわ」


 陸に二人が居るならともかく、今は二人とも海の中なのよ。死んじゃう死んじゃう。


「でも、これくらい込めないと二人が使っている魔法程威力が出ないので……」


「え?」


「本当なんです」


 なるほど、だからさっきの全力って言っても威力が少なかったわけね。


 多分魔力を魔法にする際の効率が悪いみたい。


「なるほど、だからコントロールが上手く行かないのね」


 消費される膨大な魔力の制御に気を取られてコントロールまで気が回らないのね。


「はい」


「ならジュリアに後で教えてもらいましょう。あの子ならその辺りはよく分かっているでしょうし」


 私の場合、オリヴィア様がこれまで努力してきたおかげなのか、どれだけ変換効率が悪かろうと魔力の出力もキャパが桁違いなので余裕でコントロール可能なのよね。


 一応そこら辺はエドワードに聞いているけど、感覚的な話だから伝えるのが難しいのよね。


「分かりました」


「じゃあ今はあの二人に混じりましょう」


 それからしばらくの間、びしょびしょに濡れて笑いあう女の子たちの楽園を堪能した。


「では気を取り直して。魔法の練習に戻りましょう」


 私が全員に体を綺麗にする魔法を掛けてからそう言った。


 正直ずっとこうしていたかったけれど、可愛い可愛いマルゲリータの為に来たのだもの。ちゃんと目的を果たさねば。


「そうですね」


「先程判明したことなのだけれど、マルゲリータが魔法を苦手とする原因は魔力の変換効率が悪すぎて制御が困難になっているかららしいわ」


「なるほど、そういうことでしたか。では私が適任ですね」


 それを聞いて名乗りを上げたのは予想通りジュリア。彼女も魔法を練習する中で似たような経験をしたようだから助けてあげたいんだと思う。


「はい、ジュリアさんお願いします」


「魔力変換効率が悪い理由は主に二つ考えられます。一つは魔法陣がおかしいパターン。ただこれに関しては問題ないと思います。マルゲリータさんは非常に頭が良いですし、授業の時も発動を失敗したことはありませんでしたし」


 これに関しては私もフランチェスカも頷く。頭が良いマルゲリータが座学で苦しむとは思えないしね。


「そしてもう一つは魔法陣に対して上手く魔力を込められていない。言うなれば込めた魔力の大半が魔法陣に触れることすらなく霧散しているパターンですね。恐らくマルゲリータさんはこちらだと思われます」


 なるほどね。そんな理由だったんだ。流石ジュリア、考察も説明も完璧ね。


「魔力を霧散、ですか」


「はい。魔力を魔法陣に上手く込めるためには魔力をぎゅっと丸めて、バーン!ってぶつけてやるんです」


 あっ、ダメな奴だ。教科書に載っているような事はそのまま説明できるから教えられるけど、細かい感覚になると途端に雑になる典型的なやつだ。


「ぎゅっと?バーン?」


 ほらマルゲリータも混乱しちゃってる。ちゃんと効率よく使えているはずの私だって分からないもの。分かるわけないよ……


「そうです!ぎゅっとしてバーンです!」


 この子、上手く教えられた気でいるわ……


 でも頭良い子のポンコツのってちょっと可愛いかも。


 じゃなくて、これじゃ分からないから傷つかない程度に助け船を——


「はいはい、ジュリアは感覚に頼りすぎよ。もう少し具体的に説明してあげないと」


 と思ったらフランチェスカが代わりにやってくれた。


「え?これで分かりません?」


「ちゃんと出来ているはずの私だって何言ってるか分からないレベルには謎な説明よそれ。ね、マルゲリータ?」


「はい、ちょっと難しいです……」


「え…… いやでも確かに弟たちに魔法を教えてあげてもよく分かんないって言っていたのはそういうことだったの……」


 ジュリアが膝から崩れ落ちていた。そこまでの事ですかね。


「大丈夫よ。それまでの説明はちゃんと分かりやすかったから」


 流石に可哀そうだったのでフォローを入れた。


 頭をぽんぽんと撫でて上げると少し立ち直ってくれた。可愛い。


「ってことで代わりに私が教えるわね。魔法陣に魔力を込める際は、魔法陣全体に魔力をかけるのではなく、線が描かれている所のどこかに細く強く当てることを意識するの。多分マルゲリータは全体へ平等になるように振りまいているんじゃない?」


 こっちは大丈夫そう。ちゃんと私にも分かるように教えているし。


「そうですね。全体にかかるようにやっています」


「よね。それだと効率が悪いの。何故かを説明するには、そうね。霧吹きは分かるかしら?」


「はい」


「マルゲリータのやり方は離れた所から霧吹きで桶に水を貯めるようなものなの。至近距離でやるなら別に問題ないんだけど、少しでも離れたらかなりの量が桶の中に入らずに外に出ちゃうじゃない?魔力でもそれが起こっているのよ」


「だから全体に振りかけるようなやり方ではなく、範囲を狭めて勢いをつけてぶつけろってことなんですね。だからぎゅっとしてバーンってことなんですね」


 凄い。ジュリアの説明の意図まで理解してしまったのね。


「恐らくね。で、次は何故細くするのかって話なんだけれど、魔法陣は円の中に線がたくさん描かれているじゃない?」


「そうですね」


「アレ、線とそれ以外の部分でも魔力を受ける効率に差があるのよ」


 え、マジ?そんなことあるの?いつも中央にえいって適当にやっていたんだけど……


「つまりそこにピンポイントで当たるように細くしなさいと」


「そういうこと。脳内で組む魔法陣だし、脳内で魔力を込めるから繊細なコントロールは割と容易だから」


 私もちょっと勉強になったわ。オリヴィア様の肉体だから魔力は無尽蔵に湧いてくるけど、工夫は出来るだけしておいた方が良いものね。


 試しにジュリアの膝についていた砂を魔法で取ってみよう。


 あ、確かに。線に当たる事を意識して使ったらいつもより魔力消費量が落ちた気がする。


「試しにやってみますね」


「ええ、やってみなさい」

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