第12話

 私の言葉を一切受け止める様子のない二人は、どんどんエスカレートしていき、今ではまるでカップルのような振る舞いをするようになっていた。


 そんな中、


「もうそろそろ魔闘祭が始まる時期じゃの」


 ゲームとしても、学園としても大きなイベントとなる魔闘祭が近づいていた。


 魔闘祭とはその名の通り、魔法による戦闘で競う大会。


 全クラス対抗の集団戦と、それぞれのクラスが出した代表者3名ずつによる個人戦の2部門で争うことになっている。


 学年ごとにかなり差が出るので1年生が優勝することがあまりにも難しいのだけど、早いうちに強者との戦いを学んでおいた方が良いという学園側の意図により継続している。


 というのが今回の設定。


 主人公サイドは同級生や先輩達との戦いに苦戦しながらも一つ一つ勝ち上がっていくっていう熱い展開があるのだけれど、私たちのクラスは正直どうでも良い。


「途中で変更するかもしれんが、個人戦に出てもらう予定のメンバーを3人を言っておく。オリヴィア・エヴァンス、ジュリア・ラブロック、そしてモルガン・シボニーの三人じゃ」


 だって私とジュリアが居るんだもの。


「よっしゃあ、俺様が出られるのか!ありがとよ、爺さん!」


 ギュンターに選ばれたモルガンが嬉しそうに騒いでいた。彼は伯爵家の中でも良い家庭に生まれていて育ちは良いはずなんだけれど、戦闘狂で荒っぽい口調なのよね。


「ああ、頑張るんじゃよ」


「血が騒ぐぜ!!!強者と戦えるなんて今から楽しみだ!!」


 そんなことを言っているけどあなた、戦闘とは縁遠い文官の家系でしょ……


「どうして私じゃないんですか!?」


 当然自分が代表の一人だと思っていたナルシストがギュンターに文句を言った。


 実際クラスの模擬戦の勝率はジュリアとほぼ同率で2位だから、次点で4位のモルガンが選ばれたことに文句を言うのは仕方がない。


「勝ちに行くためじゃよ。お主はジュリアやモルガンと比べても総合力はかなり高いのじゃが、特化した何かが無い。それでは格上の相手に勝ち優勝するのは難しい」


「そうですか……」


 自分でも自覚している部分があったらしく、クリストフは大人しく引き下がっていた。


「他に文句がある奴はいるか?居ないな。では早速集団戦の授業に入る。というわけで早速この紙に書かれた通りに分かれてくれ」


 そう言ってギュンターはチーム分けが書かれた紙を壁に貼り付けた。


 どうやら私はBチームみたい。


「オリヴィア様と同じチームで嬉しいです」


「マルゲリータ、私も嬉しいわ」


「ただ、あのお二人は別チームになってしまって残念です」


「それは仕方ないわ」


 多分私と実力を釣り合わせようと考えた結果こうなったのでしょうね。


「オリヴィア様、少し楽しそうですね」


「そうかしら」


「口元が若干にやけていますよ」


「あら」


 魔闘祭。日本という平和な国に生きてきた人間にとっては辛いイベントで、私も戦う事自体は好きではないのだけど、これから起こることを考えれば楽しみと言わざるを得ないわ。


 それは集団戦でマリー達のクラスに当たり、そして個人戦でマリーと直接対決が出来るのだ。


 あの女に合法的に一発入れられるイベント。楽しみに決まっているじゃない!


 オリヴィア様の代わりに悪役令嬢として活動しなさいと言われているのに、実は現段階で明確に悪事と思われるような事を一度も決行していない私。


 これで悪人の仲間入りとなってしまうけれど、仕方ないじゃない。当たってしまうのだから。いや別に法に触れることはする予定はないし、ルールの範囲内でしかやらないけれど。


 当然そんな本音をぶちまけるわけにはいかないので出来るだけ穏やかに微笑み返す。


「では、早速戦闘を始めてもらおうかの。ここが広くなったら開始の合図じゃ」


 ギュンターがそう言ってから少し経つと訓練場がクラス全員で集団戦闘を行えるくらいに

 広くなった。


 いや、私達全員が小さくなったみたい。魔法ってこんなことも出来るのね。


「今日こそオリヴィア様に勝とう!これだけの戦力があれば出来るはずさ!」


「おう!!」


「やりましょう!」


 呑気に状況を確認していると、Aチームの方々は盛り上がっていた。


「落ち着いて戦いましょう。お互いに初めての連携な上、そろそろモルガンあたりが攻撃を仕掛けてくると思うので戦術を考える時間もありません。とりあえず数的有利を維持することだけを考えて戦いましょう」




「まあ、そりゃそうじゃの」


 結果、私たちの圧勝だった。こちら側で戦闘不能になった生徒は2、3人程しかおらず、大体が余裕を持っていた。


「ど、どうして……」


 最後の一人になっても強い粘りを見せていたクリストフが息も絶え絶えに呟く。


「完全に指揮官の差じゃ。マルゲリータ、良くやったの」


 実は今回の戦闘、初手の指示以外は何もしていない。マルゲリータが私に任せて欲しいと志願したから完全に任せました。


 この子凄いわ。私抜きで他の強いクラスメイトが大体相手側というハンデを背負った上でで勝ち切ったのだから。


 頭良いわこの子。商売でやってきた家系だから戦闘面に関わる機会は左程無いはずなのにやるわね。


「すごいよマルゲリータさん!」


「どこで勉強したの?」


「すごいな!」


 今回の功労者であるマルゲリータにクラスメイトが男女を問わず集まってくる。


「ありがとうございます。本で勉強してきた甲斐があったものです」


 いつもは考えていることがよく分からないマルゲリータだけど、今回に限っては嬉しがっていると思う。


 だっていつもの数倍可愛いもん。


「というわけで、今回の対抗戦の指揮官はマルゲリータで良いな?」


 ギュンターの言葉に異を唱える人は誰もいなかった。





「というわけで、早速訓練の開始ですわ!」


 と元気よく宣言したのはフランチェスカ。


 今日は休みの日ということで、先日約束したマルゲリータの為に魔法訓練をしに海までやってきた。


「凄くありがたいのですけど、どうして海なんでしょうか?」


 私、フランチェスカ、ジュリアの3人で勝手に場所を決めていたので、マルゲリータは困惑している様子。


 そりゃそうだ。だって訓練場を休みの日に貸しきってしまえばそれで良いんだもの。


「それは勿論、楽しむためよ!それ!」


 そう言ってフランチェスカは海に向けて爆発系の魔法を放った。


 水しぶきが高く跳ねあがり、その場所に虹がかかった。


「綺麗でしょ!」


 と楽しそうにドヤるフランチェスカ。ほんと可愛いわね。


「なるほど、そういうことですか」


「はい。海なら訓練場と同じように魔法を全力で放っても人に迷惑は掛かりませんし」


 まあ水着なんてものはこの世界に存在しないらしいから残念ながら水着を拝むことは叶わないけれど。


 それでも海ってことで皆制服やドレスではなく動きやすいように洋服で来ているし、フランチェスカが爆発系の魔法でこっちに水しぶきを飛ばしてくれればいい感じの3人の姿が見られる。つまり勝ったわ。


「では早速、マルゲリータに全力で魔法を撃ってもらいましょう」


「分かりました。じゃあ風魔法のサイクロンで」


 そう言って数秒後、マルゲリータは出来る限りの魔力を込め、海に向かって魔法を放った。


 さっきフランチェスカが撃った程の威力では無いけれど、かなり近くに着弾したことにより、水が巻き上げられてこちら側へ飛んでくる。


「危ない!」

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