第11話
「ってことがあったんだけど、そろそろ頃合いなんじゃない?」
私は今日あったことをエドワードに報告し、次のミッションの確認をした。
「そうですね、丁度いい頃合いのようです。では早速次のミッションです。このリストにある方々をけしかけて、彼女たちの味方を増やしてあげてください」
渡されたリストには対象の名前とクラス、そして爵位が書いてあった。
「この基準は?」
「あなたのクラス以外で、マリーに対して負の感情を持っているもののまだ攻撃に移っていない方々です」
「だから子爵家が多いのね」
やっぱり下の子が這い上がってくるよりも自分と同格の人が突然成り上がる方が嫉妬しやすいものみたい。
「はい」
「注意点は?」
「まだオリヴィア様が関与しているとバレるわけにはいきませんので、貴族の男性に化けてから接触するようお願いします」
貴族の男性か。ならば、
「こんな感じかしら」
私は別ゲーに出てくる攻略対象の一人に化けてみた。性悪ヤンデレ生徒会長のサイモン・ハワードだ。
ヒロインを手に入れるためだけにヒロインの周囲からの評判を落とし、味方は自分だけという状況を作り出す最悪の男。見た目だけは良いので非常に人気だったけれど。
私はこのキャラが嫌いだけど、こういう話には一番ぴったりだから選んでみた。
「完璧です。それであれば女性も食いつきが良いと思います」
「じゃあこれで頑張ってみるね」
「そうなんだ。それは酷い女性だね」
「ですよね!」
「そうだ、これは関係ない話になるんだけど、貴族社会では出る杭を徹底的に打たれている知ってる?」
「はい。だからあまり目立ちすぎるなって親からも強く言われています」
「それは自分の身を守るための防衛策だからなんだ。もしかしたらその出る杭になった人が自分の立ち位置を脅かすかもしれないからね」
「防衛策、ですか」
「うん、上位互換が居るのに下位互換を選びたがる人はいないもの」
「そう、ですね」
「おっと、そんな悲しい顔をしないで。別に君がそうだというわけじゃないから。君はちゃんと綺麗だ」
「ありがとう、ございます」
「でここが本題なんだけど、この学園は成人に成り立ての子達が貴族として活動するための予行演習的な意味合いもあるんだ」
「予行演習、ですか」
「うん。婚活や学問、交友関係を広げることが目立つけどね。校則を見てみると分かるよ」
「後で見てみます」
「つまりだ、君の現状があった場合、貴族ならどうするか。考えてみると面白いかもね」
「はっ!はい、ありがとうございます!!」
とこんな感じで私は次々とリストにあった女性を闇落ちさせていった。
怪しい所は結構あったけれど、このイケメンな顔が全てを解決させてくれたわ。いやあ、本当にちょろかった。
その甲斐もあって、
「ここならデヴィッド様や男性陣も居ないことだし、ゆっくり話し合いが出来ますわ」
「あなた、少々出しゃばり過ぎではないかしら?」
と最初は2,3人が隠れて攻撃していただけだったのが10人以上で堂々とマリーに詰め寄るまでに成長した。
最初はあくまでも出しゃばりすぎだからと定期的に呼び出して注意をするだけに留まっていたが、それでも行動を変えることの無いマリーに痺れを切らしたらしく、
「これがお似合いじゃないかしら?露出も増えて男性をより誘う事が出来ますよ?」
「髪が汚れていたので洗い流して差し上げました」
と身を隠すこともせずに嫌がらせをするようになっていた。
これで女性の味方が完璧に居なくなってしまったみたい。
さらに女性陣がマリーと完全に敵対してしまったことで取り巻きの男性陣も激減したわ。
残る味方はデヴィッドと数人の男性のみ。
「すまない、マリー。私の影響力を考えていなかった……」
「いえ。デヴィッド様が私の事を助けてくれたから今があるのですわ」
となるとデヴィッドと余計に仲が良くなるのは当然の話。
マリーの場合見た目が良いから猶更よね。
で、
「あの女、オリヴィア様の婚約者とああも仲良くして……節操というのが無いのかしら!」
「ああいう所が味方をなくす原因じゃないのかしら。本当に……」
とフランチェスカとジュリアがマリーに対してキレていた。
「私の為に怒ってくれてありがとう」
いや本当にいい子!フランチェスカもジュリアも嫉妬心ではなく、私の婚約者とマリーが仲のいい事に対してだけ怒ってくれているんだもの。
最初二人とも子爵家であるマリーが自分以上に目立っていたことに怒っていたのに。
本当に私思いで良い子だわ。抱きしめたい!
こんな二人に手を汚させたくは無いわ。
「ということでデヴィッド。あの三人を関わらせずに計画を進められないかしら」
あんないい子達を悪に染めたくはないわ。
「出来ますよ。ただ時間がかかるのでしばらく待っていただきたいです」
「ありがとう」
オリヴィア様が何を目指しているのか分からないけれど、ここだけは譲りたくない点だった。
悪役は私だけで良いもの。
それから特別な指示が無かったので、しばらく静観していようかと思っていたのだけれど、デヴィッドとマリーの関係がそろそろ目に余るようになってきた。
「ねえデヴィッド様、いくら彼女を守るという目的があるとはいっても距離が近すぎませんかね?」
だから私は二人の所へ向かい、そう苦言を呈した。
完全に独断行動だけれど、ストーリー上では実際にあったイベントなので問題ない。
隣で授業を受ける。二人組になれと言われた時に率先して組む。一緒に昼ご飯を食べる。
ここら辺に関しては別に私は何も言うことは無いわ。常に一緒に居なければ何が起こるか分かったものじゃないからね。頑張って止めようにも学園の女性ほぼ全員が敵に回っている以上、下手に王族権限で罰則を課したら集団で反発されて、国を脅かしかねないから。
実際それだけなら私もここまで怒ることは無かったし、ゲーム中にマリーを恨むようなことは無かったわ。
「別にこれくらい普通だろ?マリーを守るためなんだから」
「そうです。ただ守ってくださっているだけなのです」
「ではその手はどうしたのかしら?」
けど、二人っきりの時に手を繋いでいるのは色々とおかしいよね。
「ただ不意に離れてしまわないように繋いでいるだけだ」
「べ、別に変なことはありません」
確かに恋人つなぎのような露骨なものでは無い。でも、
「人が密集しているような場所ではなく、そこに二人しかいない場所に何の危険性が?」
こんな場所で離れるのは危険人物に攫われた時以外ないでしょう。もう少しマシな言い訳をして欲しい。
「マリーを敵視している相手は非常に多い。だから常に警戒する必要がある。彼女が可哀そうだと思わないのか?」
はあ、馬鹿じゃないのかしら。
「そうですか。デヴィッド様とマリー様の考える警戒という言葉がよく分かりました。それでは失礼します」
これ以上話していると頭が痛くなってきそうなので帰ることにした。殴らなかった私、偉いわ。
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