第10話

 多分王になるにあたって優秀な生徒の目星を付けておきたいのだろう。にしても気が早いと思うけど。


「そうですね。今の所はっきりと頭角を現しているのはジュリア・ラブロック、クリストフ・ダディ、モルガン・シボニーの三人ですね」


 現状勉強面で差が付いているわけが無いので、一対一の戦闘において優れていた三人を挙げておいた。


「そうか、ありがとう」


「そちらのクラスの方はどうですか?」


 ゲームで大体知っているので聞くまでも無いことだけど、一応ね。私が介入したことで少し変わっているかもしれないし。


「そうだな。今のところは可もなく不可もなく、といった感じだな。ただ一人気になる生徒が居るが」


 あまりゲームと変わっていないようね。


「それは誰ですか?」


 それがマリーだとは分かっているけれど、一応聞いてみる。


「マリー・クラインシュミットという子爵家の令嬢だ」


「子爵家ですか。その子がどうかしたんです?」


「無属性魔法を使える素質を持った、金髪翠眼の女性なんだ」


「無属性魔法と王族の特徴、ですか」


 無属性魔法。それは重力や空間等を操る世界を直接変更できる魔法。


 ジュリアが使っていた『ウォーターランス』のような世界に概念を出現させる魔法とは別枠にある魔法。こちらは有属性魔法と言われている。


 基本的にどちらか一方しか素質を持たず、大半の人間が有属性魔法の素質のみを持つ。


 だから無属性魔法の使い手はそれだけで重宝される傾向にあるらしい。多分需要と供給の問題だけど。


 そんな代物を何故か王族の特徴を兼ね備えた子爵家の令嬢が持っているという話。


 マリーに持たされた分かりやすい主人公要素ね。これのお陰でオリヴィア様は悪役令嬢と化し、断罪されるという悲しい未来を背負う羽目になったのだから。


「ああ。見た目だけならスルーでも良かったのかもしれないが、無属性魔法もとなると王子としても看過できなくてな」


 なるほど、言いたいことが予想できた。


「それで?」


「オリヴィアに彼女の事を裏で調べてもらいたい」


 はあ、やっぱり。


「何故私なんですか」


 自分の婚約者に他の女について調べさせるとか何を考えて生きたらそういう馬鹿な結論になるのよ。


「王族である私が直々に調べたことが発覚したら色々と不都合が生じるからな。公爵家であるエヴァンス家であれば大した問題でもなかろう?」


 確かに彼女について調べていることがバレたら、彼女が実は王族の隠し子だったのでは?とか思われるし、そうでなくてもあくどい事をやっているのではって勘繰りされてマリーの評価が不当に落ちるかもしれないものね。


「嫌です。そんな事に手を掛けている暇はありませんので」


 けど、嫌に決まっているでしょう。何故あの女の為に気を遣わなければならないのですか?


「そこを何とかしてくれないか?」


「私以外の人に頼んでください」


 縋る彼を私は冷たく突き放した。


「はあ……」


 本当に行かなきゃ良かった。気分が悪くなってしまったわ。


 ってか大丈夫かしら?完全に私怨で断っちゃったけどストーリーが狂わないかしら?


「大丈夫ですよ。オリヴィア様もしっかりとその提案は断っております」


 不安だったのでエドワードに確認を取ったら、どうやら無事だったようね。


「良かったああ」


 こんなことでオリヴィア様の計画が崩れたりしたら仕方ないものね。本当に助かったわ。


「日常生活では基本的にあなたが思うように行動していただければ、オリヴィア様がしていた行動になると思います。安心してください」


「それは嬉しい……!」


 実質的にオリヴィア様と似ていると言われたようなものよ。最推しと一緒だと言われること以上に嬉しいことは無いわ。


 今日はいつも以上に幸せに眠ることが出来そうだわ。





「おっと、マリー。大丈夫か?」


「はい、デヴィッド様」


 デヴィッドにマリーの調査依頼を頼まれてから数日後、一気に二人の距離が狭まっていた。


 私が居ない間に例のイベントが終わっていたらしい。


 マリーに言い寄ってくる男の一人が暴徒化し、命の危機に陥っていた所をデヴィッドが救出する話。


 デヴィッドは全体で見ればそうでもないけど、この学年で見ればトップクラスに強いから、暴徒の処理ならば問題無いのよね。


 その中で何故か女性の友人が居ないことまで伝えた結果、デヴィッドがボディーガードとしてしばらくの間一緒にいることになったのよね。


 完全に善意でやっているのだろうけれど、それは完全に悪手なのよね。


「マリーとかいう女、生意気じゃない?」


「ね。分を弁えてほしいわ」


「男を散々楽しそうに侍らせておいて、少し嫌な目にあったからって王子に縋りつくって品が無いのかしら」


 と品の無い会話をするマリー達のクラスメイト。最初の内はまだ美人だから仕方ないわと若干諦めつつ嫉妬みたいな感じだったんだけど、今は排除しなければみたいな風潮になってきている。


「バレないように懲らしめてあげましょうか」


「それは妙案ね。正しき位置というのをちゃんと教えて上げましょう」


 お、ついに動き出すみたい。




「きゃあっ!!!」


 マリーは先日懲らしめようと画策していたクラスメイトの手によって突き飛ばされ、階段から派手に落ちた。


 クラスメイトは流石に見つかったら不味いと分かっているのか、魔法で身を隠した上で計画を実行していた。


 現実世界と違って魔法で治療が出来るから簡単に治せるとはいえ、かなり派手にやったわね。


 痛みでしばらく動けないみたい。いやあいい気味ね。


「ただ、これがデヴィッドに見つかると警戒心が強まるのは確実だから隠蔽してあげないとね」


 まだデヴィッドにいじめが見つかっていいタイミングではないから。


 ということでしばらくマリーが痛みで苦しんでいる姿を堪能した後、全身を魔法で隠し、性別すら分からなくした状態でマリーの元へ駆けつけた。


「ぐうっ、うっ」


 近くに来てみると、マリーが苦しそうにうめき声をあげていた。なんなら頭から血が出ているわね。


 これ放置していたら勝手に死んじゃうんじゃないかしら。彼女は無属性魔法しか使えないから怪我を治せないだろうし。


 怪我で死なれるのは流石に困るのでヒールをかける。すると綺麗さっぱり怪我は治り、痛みも無くなったようだ。


「あ、ありがとうございます」


 ここで死なれたらオリヴィア様の計画が狂うだけよ。別に助けたくてそうしたわけじゃないわ。


 マリーの感謝に対しそんなことを思いながら、一言も発さずにこの場を去った。

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