第1楽章 Andante 歩くように15

迎えにきてくれたこうじさんは、一段とかっこよく見えた。

仕事を切り上げて駆けつけてくれたことが嬉しかった。


「どうしたの?急に連絡が来てびっくりしたよ。すでに、彼女が出来ていれば会えなかったんだけど、まだいなかったから今日はYに会えたよ。少し、ドライブでもしながら話す?」


「ありがとうございます....。

実は、こないだは色んなことを言われて自分でも受け止められないこともあって、でも、時間が経つにつれてこうじさんの言った通りだったのかなぁと思って。例えば、お金の大切さや、自分のやりたいこと、とか...」


「そっか。Yはかわいいね。そうだったんだね。

俺は今もYが可愛いと思うよ。また、会えて嬉しいし話してくれてありがとう。」


「いえ...」

どうもこの人といるときの自分は、恥ずかしくて、子供になったような、女性になったような、そんな気分になっていた。


車が停車する。

「じゃぁ、俺と付き合ってくれますか?」


え...。

車の中、逃げ場がないようだった。

断るという選択肢がもはや無いように思えた。

私は、アホだが自分の気持ちを整理させることもできないまま、

密室の空気には耐えられなかったようだ。


「はい。よろしくお願いします」と、

全く思ってないくせに、そう呟いていた。


「よかった〜。こんな可愛い子が彼女になってくれて嬉しいよ。

キスしよう。」


え...?

キスなんて、人生でしたこともありません。ど、どうやって?ん?

脳内パニック。


「キスもしたことがなくて...」


「いいよ、任せて。」


そうすると、顔が目の前に来て唇をうっすら重ねられていた。

そのあと、舌が口の中に入ってきてぐるぐる動き回っていた。


私はよくわからないから、されるがままにしていたら、「舌と舌をね、絡ませるといいんだよ。やってみよう」と言われ、

こうじさんの動きに合わせて動かしてみた。


すごく長く感じた。

実際は1分くらいだったろうが、

初めてのことだった。


「俺の部屋の夜景、見せてあげたい。何時までいられるの?」


「うん、、、23時30分くらいの電車に乗れば大丈夫そう。」

「じゃぁ、まだあるね。行こっか!」


嬉しそうに話すこうじさんを横目に、私はどうしよう...まぁ夜景を見るだけみて帰ろう。頭の中は、ひろくんには言えないなぁということと、家に帰宅したら0時を過ぎているから実家への連絡をしないといけないこと、そして、お部屋を見せてくれるなんて楽しみなんだなぁということだけだった。


車を車庫に入れるところから、少しびっくりしていた。前は、エントランスで降りて待っていたからわからなかったけど、タワマンの駐車場はこんな感じなんだなぁと。


最上階にある部屋に行く専用のエレベーターに乗って、部屋に着くと、ブランドの靴ばかりが並んだ玄関にドキッとした。


そんなハイブランド、持ったこともないのに何足も...。

廊下を通って、部屋に入ると、、、


意外なことにもとても小さなお部屋だった。


これが、ワンルームというものなのだろう。

キッチンらしきところは扉が閉められており、部屋には、テレビと机、そしてベッドが置かれている。


「座って〜」と言われても、どこに?!座ればいいわけ?!

そんなこんなで、ベッドに座っていると、カーテンが自動式で上がって行き、高層階から見る夜景が広がった。


「綺麗でしょー。この景色のためだけに俺はここにいるんだよ。朝もすごい綺麗だからYにもまた、見せてあげるね。」


「綺麗ですね!」

本当に綺麗だった。

都会があまり好きじゃない自分。

別に心底感動したわけではないけれど、

でも、最上階から見る東京の夜景は、

やっぱり綺麗だった。


「こっちにおいで。」

そして、気づけばベッドに座って、

2人隣で並んでいた。

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