第1楽章 Andante 歩くように14
こうじさんとは、もう連絡も何も取っていなかったが、それでも気になる存在であった。そうしていると、ふと自分の心が揺れ動いていることに目を瞑ることができなくなっていた。
この頃には、もう仕事なんて上の空だ。とにかく集中力が切れている。どっちと付き合えば、自分が幸せになれるかばかり考えていた。どっちと付き合えば、自分は傷つかないか考えていた。
そうして、思いついたのだ。
もう一回、こうじさんに会えるか聞いてみよう。
それで無視されれば、ひろくんに決めちゃえばいい。
実のところひろくんには、LINEでしっかり伝えていた。
「実は、ひろくんと付き合えたらいいなと思っている。他の人からの告白もあったけれど、蹴ったんだ。だから、もしひろくんも好きな人が何人かいて私が候補に入っていたりしたら、教えてくれないかな?」
ド直球すぎるだろ、と思うが、ひろくんも答えてくれた。
「ありがとう。実は他にも連絡を取っている人がいたけれど、俺もYと付き合いたいと思っているよ。でも、直接会って伝えたい言葉があるから、、、今本当は書いてしまいたいけれどちょっと待ってほしいんだ。会う時、楽しみにしててね!」
こんな答えをもらっていた。
安心もあったし、ウキウキだった。
そう、マッチングアプリを始めてから気持ちの変化があった。
異性と話して、こんなにドキドキできるのか、と初めて知った瞬間でもあった。
今までは、2次元、声優などに好きと言う感情を抱いていたが、その違いに改めて気付かされていた。というか、考えたくもなかったんだな、きっと。
まず、2次元やアイドルたちは我々の偶像に過ぎない。こちらがいくら好きという感情を表現したって、何か直接的に返事はこない。多少あったとしても、それは自分自身ではなく、ファンというフィルターを通して通じ合っているに過ぎない。そして、崇拝しているから、見返りももちろん求めていない。まぁ、ここらへんについては恋愛においてもそのようにありたいものだが、しかし、実際普通の異性と話してみるとちゃんと反応があるわけで、ともすると、自分の好きな人が人間であって、返事や反応があることがこんなに嬉しいものなんだ、と気づくわけでもあった。
さて、まぁマッチングアプリなんて、所詮赤の他人だ。別に無視されたってなんだってかまわないし、自分だってそうすることもできるわけです。
そうして、頭の片隅で離れない、こうじさんにはダメ元で連絡を入れてみた。
「断ったのに、いきなりの連絡をごめんなさい。また会っていただくことはできないでしょうか。」
すると、「いいよ。」。
いいよ!?
「ありがとう。今日なら仕事終わりは21時で上野にいるんだけど、どうかな?」
「じゃぁそこまで迎えに行くよ。待っててね。」
こんな感じでとんとん拍子で進んでしまい、自分でも気後れしていた。
また、会える...。
前回の会話では、私の仕事の話もしていた。その時に「本当にやりたい仕事でもなさそうだね。」と言われたことも記憶に引っかかっていた。
お金や仕事に関する、社会の現実を突きつけられて動揺していたけれど、その通りかもしれない、なんて思っている自分もいたのだ。
そして、深い底に向かう道を歩み始めていることに、
この時はまだ気づかなかった。
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