第1楽章 Andante 歩くように11

最後に会う4人目は、37歳経営者のこうじさんだった。


当時私は22歳であり、卒業したてで社会の忙しさ、働く気持ちも全く整っておらず、これからの人間だったが、彼は若くしてから起業し、今では複数の取締役でもあった。


しかし、こんな説明をされても、私にはいまいちピンとこないのだ。とりあえず、何かを沢山やっていて休みもほとんどないくらい働くすごい人、そんな感じに私には映っていた。


LINEのやりとりは、すごくスマートで、そこがとても好印象だった。

会うまでに、毎日1回きりで終わるLINEをしていた。1回の量は、すごく長文でたまに「続きを見る」まで続くこともあるくらいだった。お互いのことを話し合ったり、時には将来についてどんな考えを持っているのか話し合うような場面もあった。


私も、気に入られたかったんだろう。話を聞きたいと興味があったんだろう。嫌いなられないように細心の注意を払っていたと思う。


そうして迎えた当日。

私は買ったこともない長いコートを買った。小さなバックを持って、電車で1時間ほどかけて向かった。わくわくしてたし、楽しみだった。


約束の時間は、20時だった。


待ち合わせ場所付近に向かうと、彼は外車で待っていた。

ドアを開いてもらうとドアから地面に外車のロゴマークが光るようになっていて、そんな車に乗るのだって初めてだ、、、。


「今日は来てくれてありがとう。嬉しいよ」

「いえ、こちらこそお迎えありがとうございます。」


「今日は、大好きな夜景に連れて行くね。」

「ありがとうございます。」


はー、夜景か!

さっすがだな・・・。というか、完全なれているよな〜全部スマートじゃん。

声だって、落ち着いて穏やかで低くて、話し声がめっちゃいいんだよなぁ。


そんなことを思っていた私。

それでもやはり、15歳年上を見てなかなか衝撃もあった。やっぱ、若くはない気がした。


それでも、着ている服もスーツでかっこいいし、何より車の運転が超スマート。

教習所を通い終えてまだ半年と過ぎていなかった自分にとっては、もぅたまらないくらいよかった。人混みの多い道中を、すごいゆっくり丁寧に通り過ぎるところとか。

とにかく、28歳のりゅうさんの高速道路をすごい速さで走り抜けられるより、このゆっくりした動きにいともかんたんにやられている自分がいた。


「ついたよ〜」


そうして、海と街並みが一望できる綺麗な場所まで連れてきてもらって、私はすでに上の空だった。そもそも、夜に都会の街を出歩くことも滅多にない。初めての経験だった。


「うわ〜、綺麗!」

こんな声、出したことないだろと自分で突っ込みながらも本当に感動していた。


そんな私の横で、こうじさんが生い立ちについて話し始めた。

どれもが「え?」と理解が追いつかないようなすごいエピソードばかりだったけれど、少し歩きながら話を聞いていた。そして最後に、ひとこと。


「俺は、自分の最初の直感とか判断力は優れいている方だと思うんだ。今日Yさんにあって、運命だなと感じたよ。僕たち付き合いませんか?」


(え、こんなすぐ・・・?)


正直、戸惑い過ぎて何も言えなかった。

少しの間を置いて、答える。


「嬉しい、、、」


「それって、OKってこと?」


「ぅーん、、、何回か会ってから決めちゃだめでしょうか、、、?」


「それは、、、、

直感でわかると思うんだけど。

俺、マッチングアプリ使ってて色んな女性似合うけれど付き合おうって言う女性はほとんどいないよ。一回会えば、なんかわかることあるじゃん。・・・まぁ、そうだよね。まだ22歳だもんね。いいよ、返事は今日じゃなくて。

お腹すいた?ご飯食べる?」


「うん、お腹空きました!」


少し微妙な空気が漂った。

けれど、まだご飯に誘ってくれてる。もう少し話を聞こう。そう思った。



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