第1楽章 Andante 歩くように⑨

3人目は、28歳の営業職のりゅうさんだった。

自分が選んだ中では、一番歳の近い人だった。一番電話をした人でもある。たいてい日曜日の午後に電話をした。お互いが好きなものを語り合って、それをPCで調べながら、理解しあって、なんとも普通の友人のようだった。

だけど、りゅうさんの真剣度はちゃんと伝わってきていた。


「おれさ、ユウさんと絶対付き合えるように今体をね、絞ってるんだ。毎日ランニングとかしているんだよ!夜と朝に。ご飯も気をつけててさー。」


私だって、細くない。なんなら、ぽっちゃりだ。

メイクもできないし、顔面偏差値低いし(もう言ってて辛い)。


でも、自分の弱さをまだ吐き出せなかった。

嫌だって思われるのが怖かったのかもしれない。


だから別にありのままでいいんだよ、と内心思いつつも、

自分のために努力してくれているりゅうさんが、かっこよかった。

自分も、少し自分磨きをしなきゃな、なんて思った。


りゅうさんは、楽しそうにデートの内容を詰めてくれた。

「何したい?どこ行きたい?」


しかし、コロナウイルスのニュースが出てからまだ1年弱。

人々は、大勢集まるようなところはまだ控えるような空気があった。私もとても気をつけていたので、「外がいい。例えば公園とか、あー海とかみたいかも」


「じゃぁ、デートは海にしよう!」


改札口で待ち合わせて、かっこいい車に乗せてくれた。

車内での会話も、緊張することなく割とスムーズで、海について気分もあがっていった。久々の海だ・・・!こんなに開放感あるんだな、、、、!


「あそこの防波堤まで行って、海を眺めようよ!」と、提案すると「え?!いいけど、面白いなー」なんていわれて、座り込んでから30分はそこで話していたかもしれない。


海を見ながら、自分たちの紹介をしあって、和やかな時間だった。

でも、徐々に近づいてくることに、私も気づいていた。

逃げることはできなかった・・・。

まだ、付き合ったこともない、男性とのやりとりもわからない自分には、正直、ひざとひざが近づく距離まで詰められたことに不快感すら感じていた。りゅうさんの手が自分の背中後ろに置かれていた。あまりに近かった・・・。


そんな不快感は、あまり出さずに喋り続け「そろそろお腹すいたね。ランチたべよっか!」と切り離す。


ご飯を食べながら、歯並びがちょっちな〜とか思いつつ、会話も内容も容姿も、特に問題もなく、どちらかと言えば仲良くなれそうな気がした。


そろそろ帰る時間になって、ドライブで高速道路に乗ることに。

結構飛ばすなぁ・・・。

そう思っていた。そんな中、


「こんなときに、言いたくなかったんだけどさ。

付き合ってくれませんか。」


・・・え?

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