「竜神様」

 丘の上で陽の光を浴びている時だった。

 いつの間にか小さき者たちが集まり、鼻先で何かをやっているのに気が付いたのは。


 鱗一枚一枚が温まり、ぐっと力を入れれば隙間が開いて。

 挟まっていたものや居着いた小さき生命を弾く。


 パキパキと硬い鱗が立てる音も相まって、心身共に心地が良い。


 だから、小さき者の行動に構う気もなかったのだが。

 何やら火までおこしている。


 ふむ。

 そうだ。彼らも火を扱うのだったな。


 その火を頭上にあげて何か小さな音を発している。

 これは、小さき者の言語か。


 わからん。

 わからんが、悪意は感じないので問題ないだろう。


 その後も陽を浴びに行くと、度々彼らが現れた。

 何をしているのかはわからなかったが、基本的にここで寝転がっている時は機嫌が良いので放置する。


 間隔があくと寝転がりたい位置に何か作られる事もあった。

 そういう時は邪魔なので退かす。

 小さき者が何やら騒いでいたが、相変わらずわからぬ。


 次に降り立った時、あちこちで煙が上がっていた。


 彼らは器用に物事をこなす。

 糧に火を通し、様々な事を思いつくという。


 だからあれもその一種だろうと思っていたのだが。


 どうやら縄張り争いらしい。

 群れていて、どちらがどちらかはわからないが争っているようだ。


 逃げて来た群れがこちらを見上げ、すぐに背後へと回っていく。

 次にやってきた群れが酷かった。


 小さき者にしては大きな声をあげ続け、木の棒や石を投げつけて来る。

 ぺしぺしと鱗に弾かれてはいるが、なんとも鬱陶しい。


 はっ!

 目にゴミが入った。

 許さぬ。


 イラっと来たので軽く火を吹き、奥に居た群れごと薙ぎ払った。

 全く迷惑な奴らである。

 その後も……。


『ええっと、もう大丈夫です竜神様。ありがとうございました』


 ふむ。

 よくわからぬが良いらしい。


 小さき者の言葉はわからぬが、戸惑いは感じられた。

 古き事を聞きたいというから語ったというのに。


 しかし、彼らは我らの言葉を随分うまく使うようになった。

 何世代か変わっただけで見ていて面白い程の変わりようよ。


「これ、そのまま書ける?」

「いや、我が国の竜神伝説がこのような語りでは威厳に欠けてしまう」

「竜神様に悪意はないけど、このままじゃダメだよね」


 相変わらず何を言っているかはわからぬが。

 そのうち、小さき者の言葉を学んでも面白いかもしれぬ。


 そんな事を考えながら鱗が鳴るような伸びをして、再びの微睡を楽しむのであった。

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