「縫いぐるみ」
縫いぐるみ、好きだったでしょう?
久々に会った親戚からそんな事を言われた。
昔は好きだったけど、今いくつだと思っているのだろう。
きっと叔母さんの中で私はいつまでも小さな子供なのだ。
私はもう十分大人だったので、話を合わせておこう。
そんな事を考えてしまったのが運の尽き。
あれよあれよと要らなくなった縫いぐるみを押し付けられてしまった。
そんなわけで、高校受験を控えた私の部屋に縫いぐるみたちが鎮座している。
縫いぐるみたち。
そう、彼らは単体ではなかった。複数形。
デフォルメされた動物だとか、何かのキャラクターたち。
ベッドの上に並べられた彼らと対峙する。
「ふ、
久しぶりに手にした縫いぐるみは悪くなかった。
勉強で疲れた時の癒しになるかもしれない。
オレンジのライオン。
水色のゾウ。
緑の恐竜。
真っ黒なクマ。
お気に入りはこのあたりかな。
とりあえずこの子たちを配置して、後は仕舞おう。
ヒーリング効果を期待するならば勉強しつつもちらりと様子をうかがえる位置が良い。
となれば勉強机の左右が第一候補。
あとは帰り着いてすぐ目につき、かつリラックスタイムで弄れるような場所。
つまり窓際と、ベッドサイド。
「ふ、完璧な計画」
そんな事を考えてしまった。
完全にフラグだった。
だって、決められない。
どの子も捨て難いのだ。
誰かを選んで配置するなんて、そんな殺生な。
どのような解法を持ってしても答えが導き出せない。
あれだけ勉強して来たというのに。
なんて難問なんだ。
これならセンター試験の方が。
……楽なんて事はないけれど、あー悩ましい。
しょうがないのでベッドに転がって目をつむる。
ごろん、目を開く。
丸い顔のライオンさん、こんにちは。可愛い。
ごろん、反対側を向く。
ぱおん。ずーんとゾウさんこんにちは。可愛い。
「ふ、罪作りな」
一息ついて上を向けば。
緑の恐竜がギザギザな歯をむき出しに。
真っ黒クマさんのつぶらな瞳がこちらを見ていて。
無理、決められない。
どういうわけか。
勉強漬けの毎日で、イライラしていたはずの私は。
幸せな気持ちでぐっすりと眠れたのだった。
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