「天使への誘惑」

 天使だと思った。

 白みがかった金髪はカール気味。

 くしゃっとした癖毛がふわふわと揺れていた。


 丸くて大きな青い目でこちらを見上げるのは従姉の子供ちゃん。


 ハーフらしい整った顔立ちで。

 本当に天使みたい。


 天使ちゃんは寡黙でおとなしい子だった。

 じっと黙って真っすぐにお菓子を見つめ。

 小っちゃくてぷくぷくの御手々を顎にあて、大人顔負けのポーズで思案している。


 か、可愛い。


「食べて良いんだよ~」


 真剣な顔で悩んでいたので、そう声をかける。

 すると、大きなおめめをぱちくり。


「すごい。こんな幸せで良いの?」


 いやいや、こちらの台詞よ。

 驚いたそのあとは、ぱぁっと晴れるように笑顔になって。

 お菓子のお皿に手を伸ばす。


「さくさくと、ふわふわがあって。選べない」

「お菓子は逃げないから、ゆっくり選んでね」


 またまん丸の青い目がこちらを向く。


「お菓子が!?」


 大変な事を聞いたとばかりに、小さな手と身体でお皿を覆うようにする天使ちゃん。

 顔まで覆っちゃって。

 でも身を乗り出してちょっと危ない。


「大丈夫よ~。逃げ出さないわ」

「本当に?」

「本当よ。お菓子も、あなたに選ばれるのを待ってるわ」

「かわいそうに」


 えぇ、どうして可哀想な事に?


「選ばれなかったお菓子が、可哀想」

「あら。そうね。可哀想だから、全部選んであげて?」

「ぜんぶ……。あくまのささやき?」


 いやいや。

 あれ、でも自分でお菓子全部食べて良いって言われたら確かに悪魔の囁きかも。

 そう考えると、今の状況は。


 天使ちゃんを誘惑する悪魔という構図に。


「ほーら、全部食べて良いのよ。それは甘くてとっても美味しいわ」

「きゃっ!」


 私の中の悪戯心が。

 止まらない。


「さくさく、軽くてほろり。あまーい誘惑」

「やーん!」

「ふわふわ~、お口いっぱいクリーミィ」

「きゃーきゃー!」


 耳を塞ぎながら天使ちゃんが楽しそうに悶えている。

 あれ、なんだろこれ。私も悶えそう。


「何してんの」


 酷く冷たい言葉が背後から襲い掛かって来た。

 ぎゃ!

 従姉がトイレから戻って来たのだ。


「悪魔の、囁きゲーム……?」

「何してんだか」


 物凄い呆れられてしまった。

 天使ちゃん、ごめんね。

 まぁでも、これからもちょいちょい。


 遊びに来た天使ちゃんに悪魔の囁きをする事にした私です。

 お母さん(従姉)には内緒だよ!

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