「万感の、執念?」

 万の富、万の軍勢。

 この世の全てを手にしたと称えられたとしても届かないもの。


 時の権力者たちが行きつく願い。

 不老不死。


 そのために「虹の欠片」が必要だという与太話があった。

 どんなふざけた話でも、不可思議で信じ難い噂でも。

 権力者がそう命じれば下の者は探すしかない。


 国中総出でというと凄い事に聞こえる。

 しかし実際の所動かされるのは数人だ。


 なんでって?

 ありもしないものを探して成果があがるはずもなく。


 そうなれば、その者がどうなるか。

 帝の命令を達しえなかった者は斬首で相違ない。


 好き好んで決まりきった悲運の札なんて取らないわけだ。

 結局、探索能力があるだとか関係なく。

 立ち回りで下手した奴に押し付けられる。


 だから自分は必死に探すしかなかった。


 噂の出所を探し、証言者を訪れ。

 西に虹が出たと聞けば馬を走らせ。

 東で虹色に輝く宝珠があったと聞けば船に乗り。


 今考えれば、それっぽいものを見繕えば良かったのだ。


 そんなだから押し付けられたのだろう。

 なんと要領の悪い事か。


 自分が東へ遠征している間に、何者かが「虹の欠片」を献上したと伝え聞いた。

 それは鈍い鉛色の石だという。


 虹を放出し終えた名残だとか嘯いて、その成果で取り入ったとか。

 馬鹿正直に探す必要などなかったのだ。


 今戻れば、自分は国庫を浪費した大罪人となろう。

 ああ、憎らしい。


 本物がない以上、それを偽物だと証明する事も出来ない。

 だとすれば自分は本物を見つけるしかない。


 これだけ何もかもをかけて探し続けて。

 手ぶらで帰って処刑されるだなんて馬鹿らし過ぎる。


 ああ、恨めしい。

 この役目を押し付けて来た官僚め。

 探さず偽物で事を済ませた嘘吐きめ。


「良い遊色なのに安いと思った」


 何者かの声がする。

 誰だ。誰だ。誰だ。


「せっかく買い付けたのに、年代物の悪霊憑きか」


 奪われてたまるか。

 これはやっと見つけた虹の欠片なんだ。

 誰にも渡しはしない。


「虹の欠片じゃなくてオパールだし」


 不老不死になったんだ。


「なってないけど、凄い執念だな。僕じゃ祓えないし、とりあえず封印しとこう」

「大丈夫なんですか先生?」

「勿体ないけど。人の手に渡った方が力をつけそうだ」


 やがて周囲は静かになった。

 暗い暗い箱の底で、今もこの欠片は虹色に輝くのだ。


 誰にも渡しはしない。

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