「行い」

 行いというものは自分に返って来るものだ。


 オカルトだとかスピリチュアルな話ではなく。

 心構えとして、そう捉えて襟を正す事が肝要だ。


 悪い事をすれば何処かで都合の悪い事が起き。

 良い事をすればいずれ何かで運に恵まれる。


 卵が先か鶏が先か。


 悪い事をしないようにという戒めの意味でも。

 悪い事が起きた時に、過去の行いのせいだと飲み込むためにも。


 良い事を心がけておけば、嬉しい事が起きる。

 良い事が起きても浮かれず、あの時のお返しなのだと噛み締める。


 物は言い様でどちらの時も使えるお守りだ。


 自分を律して精神状態を調整するのに便利な解釈。

 あるいは円滑な社会維持に必要な道徳的ツール。


 そう思っていたのに。


 手に握ったナイフは血に塗れ、ぬるりとした人の脂で覆われていた。

 ぽたりぽたりと落ちる雫をそのままに、頭は現実逃避を続けている。


 行いは自分に返って来るものだ。


 最初は不可抗力だったし、次は正当防衛だったと思う。

 目撃者、要らん事に気づく探偵気取り。

 追ってきた奴、説得してきた友人。


 ちょっとした事を誤魔化そうと足掻けば足掻くほど、積み重なっていく。

 これだけ重ねた“悪い事”は一体どう返って来るというのだろう。


 そうやって、益体もない事を考えながら。

 僕は友人の四肢を少しずつ切り分けていた。

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