「盛り上がりの裏」
割れんばかりの歓声で会場は埋め尽くされていた。
相互通信で、観客からの声が届く。
リモートで熱い公演というのは難しいと思っていたが、何とかなるものだ。
もちろん最初からうまくいったわけではない。
演者たちは思った以上に観客の反応というものを取り入れていた。
反応がちょっと悪い時は次こうしようとか、流れや空気を取り入れて構成していく。
生ものとはよく言ったもので、そうしたライブ感を観客側も感じるからこそ成立していた。
それがこのご時世、集まる事もままならない。
打っても響かない。
反応がわからない中、黙々とやっても熱は生まれなかった。
演者の問題かと問われると少し難しい。
別に手を抜いているわけじゃない。
問題なのは、相手に合わせ、現場に合わせて調整し、その時限りの特別感をつくらなければ。
それは録画しておいた動画観賞と変わらないという事だ。
映像で何とか出来ないか。
演出で何か出来ないか。
試行錯誤は続いた。
どうせカメラ越しになるのなら、と3D効果や映像挿入、ARとの組み合わせ。
失敗だったわけじゃない。
演者も観客も満足はしていた。
でも、満足で止まっていたら同じこと。
試行錯誤や挑戦を続けなければ、録画の繰り返しで済む話。
何人もの人員を雇い、試し、新機材を投入するから毎回見に来る価値がある。
その集大成。
積み重ねが成熟し、一段階上の表現になったと思える瞬間が訪れる。
良かった技術のその先へ。
観客の声をスピーカーから出すだけなら簡単だ。
公演の音に干渉しないよう調整し、雑音の多い接続者や生活音の入るスピーカーを選別。
タイムラグを最小にするため多くの人員を投入していた。
紛れて聞こえないかもしれないが暴言を吐く人だって出るかもしれない。
高いチケットを買ってまでする人間の思考はわからないが、対処の用意は必要だった。
ああ、でもその努力や手配は報われる。
スピーカーが壊れるんじゃないかというくらいの拍手や歓声に、やりきった演者たちも最高の笑顔だ。
さて、まだ終わりではない。
クライマックスから終わりの挨拶。
つまりスピーカーが静かになるタイミングがやってくる。
オペレーターの手が忙しくなっていく。
そのまま流せば誤魔化せないコップを倒したような音、雑音、家族の呼びかけ。
それらを排除する。
我々の仕事はここからクライマックスだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます