「栄光のひととき」

 煌びやかに飾りつけられた街並み。

 希望と余裕に溢れた活気は熱狂的で止まらない。


「浮かれているな」

「勝利に酔って何が悪い」


「いや、街全体がさ」

「ああ、そういう事か」


 隣で同じように街を見下ろしていた戦友は、盃を片手に赤ら顔だ。

 テラスから見える城下町はお祭り騒ぎ。


 遠征から帰ってすぐこれだ。

 戦での功労を称えてというが、自分たちが騒ぎたいだけにしか見えない。


「兵たちには騒いで忘れる時間も必要だろ?」


 戦友の言いたい事はわかる。

 窮屈で制限された生活に長時間の行軍。

 戦っていない時でさえそれでは、知らぬ間にも疲労は溜まる。


「鬱憤はパーっとやらなきゃ燻るだけだ」

「褒美であり必要なケアというのはわかる。しかし市民はどうだ?」


「市民だって同じさ。彼らだって節制に、家族を心配して過ごして来た。それに」

「それに?」


 戦友が酒をあおる。

 そろそろ止めた方が良いかもしれない。


「何より兵たちの家族だ。生きて帰って喜びを分かち合わない家族など居なさいさ」

「そういうものか」

「所帯を持て所帯を。お前も、そろそろ独り身では居られんだろう?」


 またその話か。

 酒に酔うとすぐそれだ。


「どうにもお前は冷た過ぎる。人の情に触れるべきだ」

「女を作れ、子を作れというのだろう?」


「そうだ。その固い頭をほぐしてもらえ」

「全く、いい加減水をもらってこい」


 固い頭、か。

 確かにそうなのかもしれない。

 軍議中も考え過ぎだと窘められる事が多かった。


「俺たちは勝ったんだ。そんな難しい顔してないで、もっと喜べば良いじゃないか」

「だがな。今回は厳しい戦いだった」

「そうだとしても。下の連中を見てみろ。大勝利に浮かれて、勢いがある」

「大盛況だな」

「そう、今はそういう時なのさ」


 そういう時、か。

 言われてみれば勝利で得た利益以上に、この活力というのは得難いものだ。

 その足を引っ張るよりも、良い方向に導くべきなのかもしれない。


「栄えある帝国に乾杯ってね」

「飲みたいだけか」


 結局のところ、そんな事を考えていられるのも余裕がある証拠。

 戦友は自分だけでなく、こちらの杯にも並々と酒を注いで来た。


 今は、この時を楽しもう。

 煌びやかに飾りつけられた街並みを肴に。

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