「散布界」


 長距離射撃というのは誤差が出るものだ。

 どれだけ技術が上がろうと、風や自転、空気密度など多岐に渡る計算を瞬時に完遂する事は難しい。


 射撃した瞬間、弾が通るだろう軌道の湿度分布や着弾までの風の変化を見通すなんて不可能だ。


 更に、距離が遠くなればなるほど少しの誤差も大きくなる。

 手元の分度器で数ミリの差も、定規で延長していけば何センチもの差になるのと同じだ。


 更に更に、射撃する場所が不安定で揺れていたらどうだろう。

 何メートルも上下し、左右に揺れ、向いている方向すらくるくるしながらの射撃。

そんなものは当たるはずがない。


 そう思うだろ?

 俺だってそう思う。

 だが、それを実行しろと言われるのが海戦だ。


 どうかしてるよな。


 はじめは、大砲を横に並べて撃ちまくっていたわけ。

 前につけたり後ろにつけたりするパターンもあったけど。

 結局、横っ腹を見せ合って被弾しやすい感じで撃ちまくる。


 操舵とタイミングで技術もあった。

 例えば波に合わせてこちらの高さが上にあると飛距離も伸びる。

 外海うねりは大地がリアルタイムに陸地でいう小山と谷になるようなものだからな。


 相手が回頭する間に波間に紛れて奇襲するだとか。

 帆をまわし風を受け、わざと船が斜めになるようにして攻撃側の飛距離を伸ばすとか。


 戦列歩兵と同じ思想で運用するのも流行ったか。

 何にせよ数を揃えて何とかするってのは単純で効果的だったわけだ。


 そう、数撃ちゃ当たる。

 やっぱりこれだろう。


 数キロメートル先の航行している目標に、こちらも航行しながら当てる。

 直接視認できないかもしれないが、いくつかある砲の角度を揃えて。

 相手の進行方向に一斉射撃でばら撒けば良い。


 良し、これを散布界で捉えるという概念にしよう。

 あとはめぼしい人間に知識をおろして。


 なんて作業をしたのはついこの間だった気がするのに。

 今度は音波の照射とかレーザー光線だとか言い始める。


 懲りないね人間さんは。


 飽和攻撃と処理速度の勝負になるんじゃないの?

 エネルギー効率が悪いから決め手と戦闘手順の最適化?

 それ俺の仕事かなぁ。


 残念ながら宇宙に進出した所で俺の仕事はなくならないらしい。

 戦神が引退出来る日は何時になるのやら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る