「雲海を割り、空を往く」
風圧で服や髪が暴れて止まらない。
まるで空気の層を押しのけているかのように重く、そのくせ実態がない。
身を潜めた防風の先に見える青は何処までも広く高く。
雲を足蹴にした高度は爽快で、寒かった。
「身を乗り出すなんて、相変わらず物好きだ」
「良いじゃん。配達終わったんだし、風に包まれてる感じがして好きなの。寒いけど」
風切り音に負けないくらい、低いグルルルという笑い声が響く。
お尻の下から来るのだから避けようがない。
私の相棒、飛竜のリェーテはよく笑う。
笑うのは良い事よ。
でも、シートが全てを吸収してくれるわけじゃないんだから程々にして欲しいと思うわけだ。
「もうちょっとシートを良いのにしたい」
「重くなるじゃないか」
「ちょっとじゃない。鍛えたら?」
返事のかわりにリェーテが身震いする。
全くもう。積み荷がなくなった途端すぐこれだ。
「あ、ねぇ。もしかして積み荷がある時は遠慮して飛んでる?」
「気を遣った飛び方になるんだよ」
「荷崩れしちゃうから?」
「だから載せ過ぎるなよな」
なかなか難しい問題だ。
リェーテが食べるお肉代を賄うにはいっぱい飛ばないとならないし。
休息日も入れないと体力的にも危ないわけで。
そうなると一度に運べる量は多い方が良い。
「まぁでも」
「ん?」
「こうやって空を飛ぶの、好きなんだよね」
「違いない」
また私の相棒がグルルルと笑った。
もう、響くんだから。
私はこっそりと新しい鞍の仕立て代を計算しながら。
相棒と共に一面の雲上を駆け抜ける。
これからも、ずっとずっと。
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