「志高く」

 集いしは栄えある勇士たち。

 今日という日に臆することなく、自らの犠牲を厭わぬ強者。


「ついに、この日が来たか」

「あぁ、お前も逃げずに良く来たな」

「お前こそ」


 男たちはそれぞれの勇気を称え合い、戦装束に身を包む。

 素顔を隠し、挑むは祭りの舞台。


「来たぞ、やれー!」


 気合の雄叫びと共に、いくつもの投擲物が飛んでくる。

 身体を打ち付ける痛み。

 仮面がなければ目がやられていた。


「鬼は外ー!」

「しねー!」


 子供相撲大会で優勝したユウタ君が力の限り豆を飛ばしてくる。

 炒った大豆は十分過ぎる強度だ。


「青鬼ぃ、立てぇぇ!」


 痛みのあまり蹲った青鬼の腕を掴み、赤鬼が叫ぶ。

 やはり今年は危険過ぎたのだ。


 ユウタ君はやる気満々で顔を狙って来る。

 退治される鬼にも明日があるというのに。


 だが青年会の鬼も負けてはいない。

 毎年、子供たちに鬼の恐怖と討伐を示して来たのだ。

 今年もその責務を全うしてみせる。


 志高き赤鬼は、青鬼を庇うように前へ出た。

 鬼には鬼の矜持がある。

 追撃していたユウタ君はたじろぎ、その対決を他の子供たちは固唾を飲んで見守った。


 こうして町内会節分は大成功に終わり。

 赤鬼は病院へ向かう事になったのでした。


 めでたしめでたし。

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