「模型屋での出会い」
模型屋に気になる子が居た。
女の子? 違う違う。
模型屋なんだから、もちろん模型の事だ。
そこは自転車を走らせてちょっと行った所にある個人経営のお店。
気軽には立ち寄れないけど、近場にはない海外からの輸入品だとかレアモノが埃を被っている穴場なのだ。
教えてくれたのは兄で、その兄も誰かに教わったらしい。
ともかく、そうやって口伝で受け継いできた特別なお店だ。
僕もクラスメイトにはここを秘密にしている。
だって、ここはとても静かなのだ。
狭い店内に積み上げられた模型やおもちゃ。
しんとした中で眠っている。
そこから、はじめて見る子たちをかき分けて。
自分だけの模型を発掘する行為は、真剣で神聖で。
落ち着いた興奮で満たされる特別な儀式だった。
ここにクラスメイトが居たら「すげー!」だとか「なんだこれ変なの!」とか、とにかく五月蠅い事になるのは間違いない。
突然だけど、僕のお小遣いは多くない。
毎日遊び疲れたら公園の脇で駄菓子屋に入るし。
友達とめんこ勝負だってする。
遠いというだけでなく、お小遣いを貯めないと来られないのがこの店なのだ。
で、見つけてしまった。
発掘なんてするまでもない。
レジ横にちょこんと座っているその子。
デザインはシンプル。
丸い顔に怒り目、巻角が二つ生えていて。ジャケットを着たアニメキャラみたいな子だ。
そのまとまってる感、デフォルメ感の完成度に僕は惹かれていた。
でも、角が一本折れている。
片角が欠けたデザインというわけではなく、断面は塗装のない中身が見えているし、支えていた針金のような部分も露出していた。
「あの、このキャラの商品って他にありますか?」
「ん。いやーないねぇ。古いキャラだし。知ってるの?」
「いえ、その。一目見て凄い良いなって」
「ははは、こいつも喜ぶよ」
店長のおじさんは笑ってくれたけど、僕はどうしてもこの子が欲しい。
だから、話が終わってからもずっとその子を見てしまっていた。
「あの、この子売ってもらえませんか?」
「えぇ? 角が折れてるし飾ってたから結構汚れてるけど。そんなに?」
「はい。あ、えっと。足りないかもしれないけど」
僕の軍資金は1000円。
小学生にしてはお小遣いを貯めた方だと思う。
おじさんは困ったように頭をかいていた。
「まいったな。一応、今こいつの角を作ってる所なんだよね。思い入れもあるし」
角を自分で!?
衝撃的だった。
そんな手があるだなんて、思いもしなかった。
僕は内心で「角が折れてるんだから安く譲ってくれても良いじゃん」と浅はかな考えをしていたのだ。恥ずかしい。
その衝撃から立ち直るまで時間がかかった。
それから、たっぷりと沈黙したのちに僕はお願いをする。
「見学に来ても良いですか」
「え、見学? 何の?」
「角、作ってる所の」
自在に好きな部位を作れるとしたら、それは革命的な事だ。
どうやっているのかも興味があるし、出来る事なら自分でもやってみたい。
だって、それなら誰とも被る事のない自分だけのものが作れる。
おじさんは困ったように笑っていたけれど、最後には承諾してくれた。
やった。
おじさんが言うには模型にプラスチック粘土で造形を足したり、調整する事は誰でも出来る事らしい。
毎週見学に行く約束を取り付け、僕は帰り道を走る。
きっと、僕にも出来るようになる。
やがて弟子になり、免許皆伝され。
おじさんに認められた僕は、いつかレジ横のあの子を貰うのだ。
決意を胸に、僕はひたすら自転車を漕ぐのだった。
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