「中身の話」

「例えば、この箱の中身を外側から知ろうとした場合いくつの方法があるだろう」


 教授がそう言うと、生徒の一人が素早く手をあげる。

 端正な顔立ちは自信に満ち溢れ、乱れ一つない服装はいかにも知性を感じさせる子供だ。

 教授は頷いて先を促す。


「金属製でとても頑丈そうな箱です。蓋も見当たりませんが、そうですね。工業化の水圧カッターなら開けられると思います」

「いや開け方を聞いているわけじゃないんだ」

「何故ですか。箱を開けた所で中に入るわけではない以上、それは外側から見ていますよね?」


 教授は頭を振った。

 生徒は不満そうだったが違ったかーと素直に座りなおす。


「はい先生」

「おや、何か思いついたかな?」

「難しい問題だと思いました」


「いや感想を発表する場じゃないんだよね」

「じゃぁ先生は何を求めているんですか」


 教授が持っていた箱を教壇の上に起きて、両手をついて教室を見渡した。

 何人もいる生徒は皆不思議そうにその様子を眺めている。


「例えば、この中身を知る方法だけでも君たち一人一人、違った方法を思いつくかもしれない」

「その可能性はありますね。僕は透ける眼鏡が欲しいなって思いました」


「そしてどの方法が良いのかという意見交換や議論が出来たかもしれない」

「なるほど。しかし私は一つも思いつきませんでした!」


 教授は大きなため息をついた。

 とはいえ、このクラスを任されて一日目である。

 ここからどんな授業をしていくか方針くらいは出来た。


 少なくとも先ほどのやり取りで、生徒たちの頭の中身は知る事が出来たのだから。

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