「闘いの時来たれり」

 時は来た。

 気持ちは試合前の拳闘士。

 向かうは画面。


 いざ尋常に、勝負。


「という気持ちで毎回挑むんですけどね」


 また負けた。

 大人気商品の予約画面にはSoldoutの文字が表示されている。


 ライブのチケットもそう。

 限定グッズもそう。


 数量限定。

 受注生産。

 期間限定。


 毎回次こそはと画面に貼り付き、開始0秒で動くのに。

 心臓はバクバクで、操作ミスひとつがタイムロス。

 スムーズに、しかし間違えないように。


 事前にカード情報も登録して。

 その動きは最速。常に最善を尽くして来たというのに。


 未だ一度も勝てた試しがない。

 なんなら運頼みの抽選だって勝った事がない。

 タイムセールだってまともに買えた事あったっけ。


 全く、この世には闘争が多過ぎる。


 どうして少ない席を取り合うのか。

 分け合えば良いのに。

 と負ける度に思う。


 勝った者の優越感のためだけにある仕組みかもしれない。


「あんたさ、絶対ギャンブルだけはやめなよね」


 そんな私の愚痴を聞いていた友人が言う。

 どうしてギャンブルの話が出てくるのだろうか。


「ギャンブルなんてやらないわよ」

「やってる事がさ……」

「なによ」

「まぁ良いけど」


 おっと、無駄話をしている場合じゃない。

 次の闘いが私を待っている。

 いくぞ、私。


 今度こそ、私は勝つのだ。

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