「戦いのルール」
例えば、右利きの人間は右から左に打ち下ろす方が力が入りやすい。
自然と右が攻撃、左が防御となる。
大昔は集団における陣形にすら適用されて来た。
これは銃火器の現代になっても同じ事が言える。
まぁ利き腕というより利き目だな。
右と左とある目の、どちらで主に見ているのか。
もう片方は立体視のための補助みたいなものだ。
照準ってのは覗き込んで両目で見れば、疑似的に半透明のようになる。
ゲームだと邪魔なアイアンサイトも視界を塞ぎ切る事はない。
指を右目の前に持って来て、両目でその辺を見ればわかるだろう?
で、ライフルってのは構えると構造上右利きなら右に寄った三角形を作るわけだ。上から見てな。
右脇を締めて保持し、長物を支える左手が伸びる。
これで狙いやすいのはどうしたって左側だ。
右を狙おうとして脇を開くと安定性が落ちる。
右を狙うには姿勢を保ったまま回転しないといけないわけだな。
それに、右手に持って構えている以上。
右から顔を出すならすぐ撃てるが、左側からでは射撃がしにくい。
よって右から回り込むように包囲するのが攻めやすい動きとなる。
これらは構造上、そちらの方が合理性がある。メリットがあるという理由だ。
戦闘には思ったよりルールがある。
「はい先生、毒ガスや火炎放射器はどうして禁止になったんですか?」
「メリットがないからだ」
「殺し合いなら便利な道具なんじゃないですか?」
「殺し合いじゃない」
例えば、それがお互いの種族をかけた生存競争であり、どちらかを殺し尽くすまで終わらないのだとすれば手段を選んではいられない。
しかし戦争は違う。
基本的に主張や利益のために争いが起きたのなら、その後を考えなければならない。
特に戦闘行為なんて金食い虫だ。
長引いて良い事なんてない。だから戦いを拒否したくなるほど惨い兵器だと敵味方揃って前に出なくなり問題だ。遺恨も残る。
戦後に後遺症で生産力が落ちたり、土地そのものがダメになったりしても意味がない。
お互いの首脳陣にメリットがないと判断されたものは、いくら効果的でもな。
兵器の応酬で際限がなくなれば経済的にも共倒れになってしまう。
そうならないために、事前に「これはお互い困るのでやめときましょう」と決めるわけだ。
とはいえ負けて全てを奪われるくらいなら、と裏で使うような事態は起こる。
でもそれは秘密裏に切れる小規模なジョーカーとしてであって、表では禁止されたままだ。
戦闘行為は地点から相手を退かすのが主目的であり、殺し尽くすのが目的じゃない。
だから戦闘の過程で死人が出るのは許容出来ても、人員を狙って削るスナイパーは敵に嫌われるわけだな。
「つまり、我々は毒ガスを表立って使うくらい追い込まれているというわけですね」
「いや違う。あいつらは人間じゃないから何も躊躇う必要はないというだけだ」
地下室が揺れ、砂や埃がパラパラと落ちてくる。
今まさに、我々はルールのない戦争中なのだった。
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