「読書は素敵な時間です」
分厚い書物を手に野原を駆ける。
息があがるのも構わず、がむしゃらに。
北部の地は寒いけれど、それが気にならないくらい走った。
納屋へ飛び込んで一息つけば、やかましい心音と自分の呼吸音しかしない。
ちょっと暗いけれど、新しく手に入れたこの本は誰にも邪魔されず一人の世界で読みたかった。
落ち着いてから、はやる気持ちを抑えて二階へと上がる。
こっそり持ち込んでおいた椅子を引きずって、さて何処で読もう。
木窓に近づき過ぎるとやっぱり寒い。
かと言って納屋の奥では暗くて読みにくい。
待ちに待った本なのだ。
万全の状態で楽しみたい。
抱え込んだ書物は父に下らないと一蹴された大衆小説だ。
下らなくなんかない。
著名な作者が、北部に伝えられる伝承をもとに碑文や口伝をしっかり調べてまとめあげたものだ。
多少盛り上げるための誇張表現が入っているかもしれないが、それは読み物としては必要なこと。
大本となった物語だけでなく、現地での風習や地域での伝わり方といった小噺やフィールドワークの重要性を教えてくれる大切な教本でもある。
更にこれはその最終巻だ。それを下らないだなんて。
「父さまのわからずや!」
鼻息荒く、少女は本を抱えたまま片手で引きずっていた椅子を放る。
途中で見つかって中断とお説教になるのだけは避けたい。
つまり迷っている暇はなかった。
そうだ。何処でだって楽しめる。
私は何処でだって物語に入り込み、冒険に行ける。
新しい世界、見知らぬ土地、息を呑む展開。
それこそが私を惹きつけ、夢中にさせてくれる読書というものなのだ。
少女はページをひらく。
もはや何者も少女を阻む事は出来ない。
こうして、至福の時間をたっぷりと味わった少女は。
周囲が暗くなるまで読み耽った結果。
たっぷりとお説教を味わう事になるのだった。
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