「李飴」

 縁日で食べたい大好物。

 あんず飴。ああ、あんず飴。


 東日本にしかないらしいこの飴は、果実に割りばしを刺し、水飴をからめて冷やしたものだ。

 果実は酢漬けやシロップ漬けにされていて甘酸っぱく爽やかな菓子である。


 西日本ではりんご飴があるらしいが、りんご飴の飴は砂糖水を煮詰めたべっこう飴なので果実の差だけではない。


 ふふふ、あんず飴。


「それアンズじゃなくてスモモだよ」

「え?」


 衝撃の事実だった。

 長年愛して来た菓子だというのに。

 私は、知らなかったのだ。


 滑稽である。

 LOVEを自認し、縁日があると聞けば遠出してでも買いに出ていたあんず飴が。

 まさか、スモモ飴だっただなんて。


 確かに。確かに、駄菓子屋の酢漬けのスモモに似てるなぁなんて思ってはいた。

 余談だがあれも好きでよく食べていた。


 どうしてこんな事に。

 これまで愛し続けたアンズがスモモだったなんて。

 偽りの愛の中、私は何も知らずに食べて来たというのだろうか。


 当然何度も通っているのだから、あんず飴という屋台に「みかん」だとか「いちご」に水飴を絡めたものがあるのは知っていた。


 だが私は、それらを買う人々を見て。

 正直に白状してしまえば、軽蔑とまではいかないまでも。


「あんず飴の屋台で、あんず以外を食べるとか(笑)」

 と小馬鹿にして居たのである。


 何たることだろうか。


 これまで馬鹿にしてきただけに、その反動はいかほどか。

 滑稽どころの話ではない。


「なんだい兄ちゃん知らなかったのか? ほら、あんず飴。いや、李飴だよ」


 悪気のない屋台のおっちゃんが笑いながら差し出してくれたのは、いつものあんず飴。

 いや、本当の名前はスモモ飴だったか。


「別に知ってようと知らなかろうと味なんて変わんねぇよ!」


 ぼんやりとしていた私におっちゃんが笑い飛ばす。

 そんな軽い問題ではない。


 飴が垂れぬよう最中の皮を受け皿に、ちょこんとまん丸真っ赤な実がひとつ。

 水飴は艶やかに。そして涼やかに。あんず……スモモを包み込んでいる。


 あん……スモモに罪はない。

 私は水飴ごと果実にかぶりつく。

 飴が歯につくだとか、そんなことはどうでも良かった。


 ふにゃりと、しかして確かな歯応え。

 優しい甘味の飴がひんやりしていて少し硬い不思議な食感である。

 硬いのに柔らかいのだ。


 そして実ごと嚙み切れば、酢漬けのあん……スモモから爽やかな酸味が突き抜ける。


 これだ。


 これだよ。

 あんずだとか、スモモだとか関係ない。

 これが好きなのだ。名称なんて知った事か。


 蜜柑とか苺とか、林檎だって良いじゃないか。

 私はこの「あんず飴」が好きです。

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