「花畑の思い出」
ぽかぽかとした陽気の中、手足を投げ出して寝転がるのが大好きだった。
空は高く、雲がちらほら散っていて、視界の端では黄色の花が揺れている。
まるで絵画を独り占めしているみたい。
その特別感がたまらなく楽しくて、温かくなるとよくここに来ていた。
裏山に分け入って進むと現れる一面の花畑。
最初に見つけた時は圧倒されて、自分だけの場所だと興奮したっけか。
まぁ、こんな絶好の場所を遊び盛りの小学生が見逃すはずもなく。
すぐに他の子たちが駆けまわってるのを見てがっかりしたのは御愛嬌です。
「まーちゃん見っけた」
なんて、一人で楽しんでいたら見つかった。
花畑に紛れているはずなのに、流石お婆ちゃん。
もうちょっとこうしていたかったけど仕方がない。
「なーにお婆ちゃん」
「みんな探しとるよ?」
「なんでー?」
何やらかしたっけ。
ピアノのお稽古サボったのは一昨日だし。
玄関にバッグを放り投げて遊びに行ったのは昨日だっけ。
今日やった事はー。
屋根の上によじ登って川を見ていたくらいかな。
この、お婆ちゃん家の花畑と一緒でお気に入りの場所だ。
今の家は川に接するような立地で、屋根から下を覗くと透明な川の底で魚が泳いでいるのが見えるんだ。
で、遠く家々の先には港と水平線。あそこも私の特等席。
でも危ないからやめろと何度も怒られるんだ。
登るだけならまだしも、下を覗き込むなんて。
そうだ。あの家に移ってから花畑なんてしばらく行ってない。
行かなくなったんだ。寂しいな。
お婆ちゃんに会いたい。二人で行った花畑に行きたい。
あれ? でも今お婆ちゃんに見つけてもらったような。
「マイ! マイ!」
自分の名前を呼ぶ大きな声で目がさめた。
朦朧とした意識、頭が重い。ぴっぴという機械音が耳に残る。
「おとー?」
「おま、お前! もう二度と屋根なんか登るんでねぇぞ!」
やかましかったし揺さぶられて痛かった。
なんで痛いんだろ。
「今ね、お婆ちゃんに会っとったん」
そうポツリと言うと、何故かお父さんは泣き出してしまった。
そのまま強引に私を引き寄せて抱きしめるんだからビックリだ。
ああでも、あの花畑じゃないけれど。
お父さんの腕の中は、何となく春のような温もりが感じられた。
ちょっと、痛かったけどね。
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