episode 3. 高速道路料金所にて

 天気の良い週末、道生と路乃は車で遠出をしていた。行き先は隣県に済む道生の先輩の家だ。先輩は兼業農家で、取れたての野菜や果物をたくさん持たせてくれた。

「これでしばらく買い物に行かなくていいわ」

 箱一杯の野菜をどう料理しようか、助手席に座るほくほく顔の路乃はスマホで手軽な調理法を調べている。


 高速道路を2時間ほど走り、料金所に差し掛かった。道生がETC・一般と看板のあるレーンへ進む。

「どうしてETC専用に行かないの」

 この車にはETC車載器がある。路乃が不思議そうに訊ねる。このレーンはETCと現金払いの両方対応しているが、現金払いの車がいれば時間がかかるため通常ならETC専用レーンの方が早い。


「横を見てみろよ」

 道生が得意げにETC専用レーンを指差す。ETCは料金を車載器に差したカード払いで通過できるが、20キロ以下での通過が推奨されているため、かなり速度を落とさなければならない。そのため、並ぶ車の台数がかさむとそれなりに待ち時間が出てしまう。

 今もETC専用レーンには6台の通過待ちの車が並んでいる。


「前の車は国産の高級セダンだろ、絶対にETCをつけているよ」

 道生が選んだETC・一般レーンには前に一台の白い国産セダンが通過しようとしている。あの車がETC車載器を積んでいるなら、料金所で停車することなくスムーズに通過できるので隣の専用レーンよりも待ちが少ない。


 しかし、セダンは料金所ブースの前で車を停めた。そして、現金で支払いをしている。支払機と車の距離が離れすぎており、かなり手間取っている。その間、隣のETC専用レーンは後続車がスイスイ通過していく。

「新型のセダンなのに、ETCつけてないのかよ」

 そんなアホな、と道生はがっくり項垂れた。


「いや、あの車にはきっとETCがついてるわ」

 路乃が前の車をビシッと指さす。

「何でETCつけてて現金払いなんだよ、カードを忘れたのか」

 道生が首を傾げる。

「カード明細を見られたくないのよ」

 ふっふっふ、と路乃は怪しく笑う。


「ETCを利用すると、カード明細に行き先が出ちゃうでしょ。それを知られたくないのよ。これはやましいドライブなんじゃないかしら、例えば不倫とかね」

「なるほど、だから慣れない現金払いに手間取ってるのか」

 道生も納得した。白いセダンはようやく支払いを終えてゲートを通り抜けていった。


 道生もその後に続いて進入する。すると、ゲートのバーが開かない。

「どういうことだ」

「落ち着いて、車載器にカードは入れてるの」

 路乃の言葉に、道生は車載器を確認する。見ると、カードが抜けていた。料金所の係員にそのことを伝え、手動で処理をしてもらって無事に通過することができた。


「あぶなかった、ゲート破りをするところだったよ」

 道生はふう、と大きなため息をつく。

「不幸中の幸いね、白いセダンの不倫カップルに感謝しないとね」

 路乃は何故か楽しそうだ。不倫と決まったわけじゃないだろう、と道生は思ったが黙っておくことにした。

 

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