第12話 電車のトラブル

 もう何十年も前の話だ。

 修学旅行の待ち合わせ場所が、北九州で一番大きな小倉こくら駅だった。

 

 旅行に出発する日の朝、家から一番近い駅のホームは、集合時間の少し前に着く電車に乗ろうとする生徒たちで溢れていた。


 その駅から小倉駅までは快速で4駅ほど。普通なら15分もあれば到着する距離なのだが、電車はなかなか出発しない。

 なんと、大勢の人と大量の荷物で電車のドアが閉まらないのだ。


 今なら旅行といえばキャリーケースだが、当時の若者たちの主流は大きな肩掛けバッグだった。これが実にかさばる。荷物でパンパンに膨らんだバッグは、人間二人分くらいのスペースを取ってたんじゃないだろうか。


 新幹線の出発時間もある。皆が不安でイライラしていると――


 突然、扉が全開のまま電車が走り出した。

 

「うおっ!」

「ええっ!?」


 生徒たちのあいだから驚きの声が上がる。

 扉付近にいたわたしも驚いた。

 扉があるべきところから、景色が後方に流れていくのが見える。


 風がびゅうびゅうと吹き込んできて、車内が一気に涼しくなった。

 幸い落っこちた人もいなかったようで、電車は止まることなく走っていく。


 みんなも慣れてきたのか、あちこちで笑いが起きた。

 もう笑うしかない状況だ。


 途中、いつくかの駅に停車したが、誰も下りず、誰も乗らず、扉を全開にしたまま電車は小倉駅まで走り続けた。


 その結果、新幹線の出発時刻に間に合い、全員無事に修学旅行に出発することができた。


 大変危険な行為だが、何百人もの生徒が新幹線に乗り遅れたかもしれないと考えると、国鉄の職員さんの英断とも言える。


 今なら大問題だが、当時はおそらくニュースにもならなかった。

 そんな昭和50年代の忘れられない出来事だ。


 


 


 











 

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