第11話 車でお出かけ

 父が車を運転するのが好きだったので、よく家族で遊びに出掛けた。

 遠出をするときは、夜中の二時頃に起きて出発する。熊本や長崎まで行くこともあった。しかも運転するのは父一人。さぞかし大変だったことだろう。


 助手席に母が乗り、ナビ代わりに地図を見たりしていたが、言うのが遅いとか居眠りするなとか、やたらと怒られていたのを覚えている。


 時には、父方の祖父母も一緒に行く。車の乗車人数は限られているので、私は助手席の母の膝の上に座った。(時効だということで見逃して欲しい) 


 交番や警察官を見ると、父が「伏せろ!」と叫び、私が慌てて隠れる。そのたびに皆で笑った。義父母と一緒の旅行なんて気を使うだろうに、母も嬉しそうだった。

 

 近場でよく行っていたのは若松の海だ。

 父はいつのまにか母に黙って、海のそばの小さな山を買っていた。当然、一悶着あったようだ。山と言っても丸ごとではなく半分らしいが、とにかくうちの山だ。ちょっと自慢だった。

 

 山には小さな小屋のような家があり、知らないおばあさんとおじさんが住んでいた。どうやらこの人達から山の権利を買ったようだ。

 毎回、海に行く前にはここで水着に着替えた。帰りは水着を着たまま車で祖父母の家まで行き、速攻でお風呂に入った。(うちには風呂がなかったのだ)


 若松の海は色々なものが浮いていて、綺麗とは言えなかったが遊ぶには十分だった。浮き輪で波に乗ってプカプカ浮かんだり、砂を掘ったり、持ってきたお弁当を食べたりして、とても楽しかった。


 数年後、高速道路が通ることが決まったとかで、山はまあまあの高値で売れたらしい。父は「俺には分かっていた」みたいなことを言って偉そうにしていた。

 だが、売れたお金を母に黙って祖父母に分け与えていたことがわかり、またしても一悶着あった。


 いい父親だったと思うが、夫としては色々とダメな人だったと思う。


 

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