第10話 散髪屋とパーマ屋
うちでは美容院のことを「パーマ屋」と呼んでいた。
母がなかなかパーマ屋から帰って来ないと、父はいつもわたしを迎えに行かせた。
母はいつも髪を茶色に染め、きつめのパーマをかけていた。「ちびまる子ちゃん」のお母さんのような髪型といえばわかるだろうか?
髪を染めてパーマをかけるのだから、何時間もかかるのが当たり前なのだが、父は母が長い時間、家を留守にするのを嫌がった。
パーマ屋のドアを開けると、今とは違って目がシバシバするほど強いパーマ液の匂いがした。
母はお釜のようなものをかぶり「もう迎えに来たの」と、お店のおばちゃんと一緒に楽しそうに笑っていた。
帰り道の母はいつも機嫌が良く、どことなくスッキリした顔をしていた。
綺麗になったからだろうと当時は思っていたが、お店のおばちゃんと話すことでストレスを発散していたのだと今ならわかる。
家の斜め前が
散髪屋のおいちゃんは、カミソリを使うたびに、吊るしてある長い何かでカミソリをシャシャシャッと研いでいた。
その手つきがプロっぽくてカッコ良かったのを覚えている。
あれは何だったのだろうと調べたら、昔は革砥ベルトというものでカミソリを研いでいたらしい。今はもう使っている店もないようだ。
やがて、わたしも年頃になり、散髪屋からパーマ屋へ鞍替えした。
この頃、女の子たちのあいだでは、松田聖子さんか中森明菜さんの髪型にするのが流行っていた。わたしは初めてパーマをかけ、明菜ちゃんヘアにチャレンジした。
だが、この髪型はスタイリングが上手くなければ成立しないということに気づいたのは、天パ―証明書を捏造して高校に提出した後のことだった。
在学中、誰にも天パ―を疑われず、明菜ちゃんヘアであることすら気づいてもらえなかったのは、ちょっと恥ずかしい思春期の思い出だ。
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