第9話 昭和と令和の映画館

 先日、話題の映画を4Dで観てきた。生まれて初めての体験だ。

 普通の椅子よりも少し横幅が広く、座るだけで揺れる椅子に座り「酔い止めを飲んでおいて良かった」と思った。


 情けない話、三半規管が弱いのか、人一倍乗り物に酔いやすい。これでバッチリ楽しめたので、同じお悩みをお持ちの方にはお勧めだ。


 映画の内容は置いといて、映画館の話をしよう。

 昭和の頃は、座席の傾斜がほとんどない映画館が普通だった。だから、座高の高い人が前に来ると最悪で、上映中ずっと頭を左右に動かし、できるだけ見える位置を探すことになる。

 だんだん疲れてくると、諦めて半分しか見えないスクリーンを見続けたものだ。


 平成二十年、新宿にシネコンが出来た。

 前もって予約が出来て席も選べるという、映画好きにとって夢のようなシステム!

 北九州で「サスペリア」を立ち見したわたしには信じられないことだ。 

 

 今の若い人が聞いたら「映画を立ち見って!」と笑われそうだが、ビデオもない時代、映画は最大の娯楽だった。入場規制もなく、自由に出入りできる映画館で、人気のある映画に立ち見が出るのはしょうがないことだったと思う。


 話を戻そう。

 夢のような映画館だが、残念なことに座席の椅子がわたしに合わなかった。


 縦に長く、大きなS字カーブの立派な椅子を見たときは感動したものだが、背の低いわたしには全く合わず、もともと虚弱なためか腰痛と胃痛で映画どころではなかった。

 一緒に観ていた男性は何の問題もなかったので、やはり身長のせいだと思う。海外の人の体型に合わせて作ったのではないだろうか。 


 後日、こりずに違うシネコンに行ってみたが、やはり例の大きなS字カーブの椅子だった。一緒に行った背の低い友人が、背もたれと背中のあいだにコートを丸めて押し込んでいる。やはり彼女も腰が痛かったらしい。

 わたしも真似をして、なんとかまともに観ることはできたが、とても快適とは言えず、映画館から足が遠のくきっかけとなった。


 令和になり、新たに出来たシネコンは座り心地が良いとその友人に勧められ、久しぶりに映画館に行った。

 背もたれが低く、とても座り心地の良い椅子に感動すら覚えた。


 これよ、これ! これを求めてたのよー! 

 昭和の座席を思い出し、心の中で叫んだ。

 昔の映画館の椅子は、頭を背もたれの上に乗せられるほど低かったのだ。


 低い背もたれに、傾斜が激しく前の人が邪魔にならない座席の配置。

 令和になり、わたしはやっと理想の映画館に出会えたのだった。



 ※つい白熱して長くなってしまいました

 



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