第6話 黒猫ミーとトラ猫トラ

 ある日、父が真っ黒な子猫を抱いて帰ってきた。

 子猫はミーと名付けられ、我が家で飼うことになった。ミーはあっという間に大きくなり、スズメや小さなネズミを獲ってきては私達に捧げた。

「誉めなきゃいけない」と親に言われたが、悲鳴をあげないのが精一杯だった。


 猫を飼っている家は他にもあったが、どの猫も外を自由に歩き回り、よその家の猫とケンカしたり、子供をつくったりしていた。

 そして最後は、伝説通り「飼い主に死に目をみせることのないように」姿を消したものだった。

 ミーもそうだった。

 ふらふらになりながらも、どこかへ行こうとして家の前で倒れ、すぐに息を引き取った。


 ミーは、トラ模様の雄猫を産んでいた。見たままトラと名付けた。

 トラは少し身体が不自由だったのか、自分の身体を舐めるのも辛そうだったので、よく身体を支えてやった。

 ミーは、夜中になると家を抜け出していたが、トラは階段を降りることが出来ず、ついて行こうとして何度も落っこちていた。


 小学生だった私は、見るに見かねてトラに階段の降り方を教えた。

 後ろ向きになり、足を下ろし、次に手を下ろしと、実践でやってみせるのをトラはじっと見ていた。

 次にトラの後脚や前脚を持って教えた。

「こうやってゆっくり降りれば大丈夫だよ」

 はたから見ると、おかしな光景だろう。

 

 その日の夜、障子の向こうから、

 コトリ……コトリ……と小さな足音がした。

 ゆっくりとトラが階段を降りて行く音だった。

(一人で降りてる)

 布団の中で、胸がいっぱいになったのを覚えている。


 あの頃を思い返すと、自然と笑みがこぼれる。

 大人も子供も、真剣なんだけど、大雑把でどこか可笑しい。そんな時代だった。

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