第5話 麻雀

 商店街の麻雀仲間たちは、土曜の夜になると、互いの家に集まり朝まで麻雀をした。

 時々、うちにもやつらはやって来た。

 あんな狭い部屋で大人が四人も集まり、一晩中じゃらじゃらと騒いで、両隣の店から苦情は来なかったのだろうか。


 禁煙なんて死語の時代。部屋の中はタバコの煙で白く煙っていた。皆、今みたいに軽いタバコではなく、ピースやホープといったニコチンの多そうなものを吸っていた。


 母はタバコを吸わなかったので、後年「私とこの子達がどれだけ副流煙を吸ったことか」と、仕入れた知識を披露しながら怒っていた。大人しい人だったが、怒るときは怒るのだ。


 私が中学生のとき、父が麻雀屋を始めた。

 それまではクリーニング屋だったのだが、機械が壊れて火を噴いたり、安いチェーン店が近くに出来たりしたのをきっかけに廃業したのだ。


 父方の祖父母が住んでいる敷地に簡素な店を作り、近くのサラリーマン相手に営業するのだと張り切っていた。

 母は特に文句も言わず一緒に店を始めたが、我儘な祖父の相手をするほうが大変そうだった。

 麻雀の人数が足りない時は、父も母も卓に着く。勝ち過ぎず負けないよう注意していたようだ。


 父はともかく、母も麻雀が強いのが不思議だった。

 家で麻雀をするときも、メンバーが足りなければ打っていたが、基本的に見ているだけだった。

「ギャンブルをしないと言うから結婚したのに」と愚痴っていたこともあるのに、何故あんなに強かったのか、今だに謎である。


 後年、製鉄所が徐々に閉鎖していき、雀荘の周りの企業も撤退していった。常連のおじさん達が次々と転勤して行き、お客さんも減っていく中、とうとう雀荘を閉めることになった。


 その後、運が良いことに、父は知り合いの紹介で道路公団の仕事についた。初めての堅い仕事に、家族全員浮き足だったものだ。 


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