10 水飲みループ
レイナはオレの返事を待たずに持っていたトレーをオレと浅川の向かいに置いた。
きつねうどん……。こっちも美味そう。
「嵐堂くん、この子が噂の転校生?」
「そうだけど……噂になってんの?」
「ええ。すごい美人が三組にきたって」
オレはいただきまーすと箸を取る。腹が減っては会話もできん。
「うめえ! やっぱかつ丼サイコー!!」
叫ぶオレに浅川がやわらかく目を細める。めっちゃかわいいけど今は花より団子だな、うん。
「で、嵐堂くん、この子が親戚って本当?」
思わずぶほっ、とカツを吹きそうになる。
「い、いや、まあ、その」
「親戚というか、婚約者なの」
今度こそオレはカツを吹いた。
が、自分の手のひらの中で収まった。あぶねえ。
すかさずレイナがオレに水のコップを渡しながら、浅川にニコーっと微笑んだ。
「そういうわけで、よろしくお願いしますね。えーと……」
「浅川璃々亜です。一組の」
隣の浅川の声が冷えているのは気のせいか?
しかしオレはとにかく吹きかけたカツを何とか口に押しこみ、水を一気飲みした。
「私、嵐堂くんとは幼馴染なんです。小学校の時からずっと嵐堂くんのこと知ってます。例えば嵐堂くんの背中にオリオン座みたいなホクロがあることとか」
オレはまたカツを吹きそうになった。すかさず今度は浅川が水をオレに差し出してくれる。
「そ、そんなの大昔の、子どものときの話でしょ?! 今のハルには関係ないわ!」
「ホクロって消えないもの。わたしが昔見たホクロは今もあると思うわ」
ていうか浅川がオレの背中のホクロのこと知ってるって初耳なんですけど?!
確かにオレの背中には変わったホクロがある。小さい頃、母親によく言われたから覚えている。『星座みたいなホクロねー縁起がいいわー』って。
顔は笑っているのに目が笑ってない二人に挟まれて、オレは水をまた飲み干す。するとレイナがオレのコップに水を注ぐ。
「な、なあ二人とも、メシが冷めるから食べたら? ほら、せっかく激戦を勝ち抜いてゲットしたメシじゃん?」
オレが冷えた空気を取りなすように言うと、浅川がにっこり微笑んだ。
「そうね。早く食べるわ。嵐堂くんが交換してくれた青椒肉絲だもの」
「なっ、ハルが食べていた物なの?!」
「ちがう落ち着けレイナ! オレはまだ箸を付けてない! 交換しただけだ!」
なぜオレがここで美女二人に挟まれてヘンな汗をかかなきゃいかんのだ!
いたたまれなくて、オレはまた水をごくごくと飲む。
オレのコップが空になるたびにレイナが、浅川が、ピッチャーからオレのコップに水を注ぐ。二人はそれぞれ自分の昼食に箸を付けつつ、お互い微笑み合っているけど……目が笑ってねえ!
それを見てまた、オレは水を飲んでしまうのだった。するとまた、美女どちらかが水を注いでくれる。
誰かループを止めろーっ!!
大食いならぬ水飲みバトルかよっ!!
なんの罰ゲームだーっ!!
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