第53話
遠くから汽笛のような音が響き渡る。
視線を向ければ、落神のシルエットに大剣が突き刺さった旗をなびかせた一団が坂を下っていく。その周りでは人々が歓声をあげ、花を捧げている。この光景も日常だ。
先頭には歴戦の英雄、アルベール・ファラリンの姿があった。頬に刻まれた無数の傷跡が経験した戦いの苛烈さを表現しているようだ。40歳を超える彼には存在するだけで覇気が滲み出ている。年齢の割に深く刻まれた皺を見れば緊張感が増す。
「また森に出るのか?最近多いな」と言ったのはソールだ。
「内結界に大物の落神が出現したらしい」
「ついこの間もじゃなかったか?やっぱり噂は本当なのかもな」
「噂」
「ほら、結界が脆くなっているっていう…」
「ああ、どうだろうな」
ヒロは煮え切らない返事を返すしかなかった。真実がどうであれ、彼らに頼るしかないのだ。英雄が率いる勇者の中には若者もいた。女性もいる。それでも転生系は誰一人としていない。一抹の悲しさを覚えるもかき消すように彼らを見送る。ボーっと眺める中、ギヌス・クラウンが目に入った。精悍な顔立ちと鍛え上げられた肉体は防具の隙間からでも確認できる。後、数年で30代を迎える世代の彼は大勇者になるかもしれないと言われるほどの逸材だ。
その姿に未来のソールが重なる気がした。フッと笑いが出る。
「結界の真偽は別として、お前が勇者になって落神を倒してくれればいいだけの事だ」
「またそれだよ。俺はヒロと一緒に森に出たいんだ。約束したじゃないか!」
ヒロはソールを諭すように肩に手を置いた。
「そう言ってくれるだけで嬉しい」
「だが…」
肩に触れる感触があまりにも優しかったためソールは小さく項垂れる。
「分かってるだろ。転生系は勇者にはなれない。その試験を受けることも許可されていない」
「だから、その制度を変えようと…」
ヒロは首を横に振る。
「やめてくれよ。俺のために何かをしようとはしないでくれ」
感情を押し込めるように拳を握りしめるソールとまるですべてを悟ったような無表情なヒロ。対照的な彼らがそこにはいた。
ソールは大きく息を吐きだした。
話していた相手を説得するのを諦めたようだ。
「なあ、ヒロ。これだけは分かっていてほしい」とポツリと言葉を紡ぐ。
「なんだ?」
「俺の剣の師はいつだってお前だってことだけは…」
最後のセリフがヒロの耳に届くことはなかった。それでも、
忘れないでくれよ――
と言われた気がした。バカなやつだ。
木の棒で遊んだのは何年前だと思っているんだ。
それだって独学でしかない。
数年もすればお前の足元にも及ばなくなる。
その時になっても師だと思っていてくれるのか?それこそ滑稽すぎるな。
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