第52話

 ヒロは周囲を確認するように見渡した。

雑草まみれの野原が広がる。

足場も悪い。この場所にたどり着くまでには道のない所を通ってくる。

足を踏み入れる者は少ないだろう。

「別に見られても平気だ。転生系と会話をすることは法律違反にはならないだろう?」

「平民ならともかくソールは貴族だ。その社会は非常に厄介なんだろ」

 保守層の多い貴族は転生者になる事を恐れている。濁りのない純血主義が美徳とされているからだ。近づけば移ると思っている者も多い。

「ヒロが気にすることではないよ。それに若い世代はわりと寛容だしね」

「よくいう。学院じゃお前も嫌転生系学生で通してるだろ」

「それは…」

口ごもるソール。その先の言葉が見つからないのか悩んでいる。

「別に怒ってはいない。懸命だと思う」

淡々と答えるヒロにソールは何か言いたげに見つめる。

目じりに不自然な皺が寄っている。

「だが、昼間の事は例外だ」

ヒロは中指に着けていた指輪を外す。

古代の人々が刻んだ幾何学模様が彫られた見事なリングだ。作者はきっと几帳面だったに違いない。何百年も語り継がれたのだろう。ヒロには決して手を出せない。その貴重な代物をソールの胸元に突き付けた。

「持っておけよ。必要になるかもしれないだろ」

ソールは指輪を突き返す。抱き起すふりをして、指輪を渡された時は何のつもりか?と思った。まさか、剣の対決に持ち込む気でいたとはな。


「必要ってなんのだ?そもそもどういうつもりで手合わせするなんて言い出したんだ?しかもあんな大勢の場所で…」

「あまりにもヒロがコケにされてたからついな…」

申し訳なさそうに頭をかくソール。

今更そんな態度取られても困る。

「つい?そんな理由で醜態をさらす羽目になったのか?」

「醜態どころか実力を見せつけたんだ。これで大抵の学生はお前に手を出してこなくなると思うよ。変に喧嘩売ると痛い目に合うって思っただろうし」

 そんな簡単にいくのか?仮に上手く行ったとしても、他の転生系はどうなる。俺のせいで彼らに矛先が向くかもしれない。

目の前の男はそんな所まで考えていないのだ。それでもヒロはソールの行動に少しばかりのうれしさも込みあがっていた。

自分も相当単純な人間だ。しかし…。

「校内であんな派手なバトルをやったらお咎めを受けるのは当然だ。それはお前じゃなくて俺に向けられるんだぞ!考えなかったのか?」

音になるのは反抗的なものばかりだ。

「悪かったよ。後の事まで気に留めてなかった。だが、アリサ様のおかげで命拾いしたしいいだろう」

 どうしてこう、ポジティブなんだ?

ヒロはソールのこういった所が謎でしかない。

二人の間に風が去っていく。

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