理不尽な現実
第51話
ミンスルの州都は縦に伸びるらせん状のような作りをしている。
全部で44の区域に別れ、上に行けば行くほど富裕層地区となり逆は貧困層の住処となっている。落神の侵入を防ぐ外壁は高く囲まれているものの最下層民は砦の外に放り出され、常に彼らの脅威にさらされている。
その境界線ともいうべき中間地点にハルモニア学院は存在する。
馬車登校がほとんどである一般学生は上の道へ、それ以外は補装されていない道を下っていく。慣れ親しんだ光景だ。
ヒロは22区域と21区域の境目にある丘から夕日を見るのが好きだった。あの明るい光を全身に浴びると雄大な自然と切なさが同時にやってくるような感覚に浸れる。
何よりミンスルという地区の全体像が楽しめた。
最上部にはこの州の主であるキリュシュ家のお屋敷が――
下には暗闇の森の入り口が確認できる。
そしてそこを行きかう商人や住む人々の日常が垣間見えた。
「今日も先を越されたか」
親しみが込められた男の声に振り向きもしなかった。かわりにヒロはいつものごとく盛大に息を吐いた。
「ずっと俺の定位置だった」
ニッコリとほほ笑み、横に立つ彼の背はヒロとほとんど変わらない。
「アリサお嬢様、泣いていたぞ」
「なんの話だ?」
青年はありえないものでも見たように驚いた。
「冗談だろ。熱烈なお誘いをされていたのに?」
熱烈?お誘い?ますますわからない。
ヒロは真顔で青年の瞳を見つめ返すだけであった。
「それは天然なのか?例の盗難事件を一緒に調べようと言われていただろう?」
「ああ、聞いていたのか」
ヒロは遠くを眺めていた。
なぜ、俺が捜査しなければならないんだ?
調査官ではないのだ。
何より盗難品を探す理由もない。
「もしかして令嬢を泣かせてしまったのか?」
「そうだな。落胆はされていたよ」
そうか。公爵令嬢は落胆されていたのか…
もしかして悪い事をしてしまったのかもしれない。
だが、ヒロの今の関心は目の前の青年に向いていた。
「ところでソール。お前、どうして毎回ここにやってくるんだ?」
突然話を変えられてキョトンとするソールが目に入る。
「お前と話したかったからな」
一拍置いて、そう答えるソールの表情は柔らかい。
「なんだ。用でもあるのか?」
ヒロは少し不機嫌な様子で問いかけた。
相手に伝わったかは不明だが…。
「ヒドイな。友人じゃないか」
ソールは意に返さないという感じで答える。
友人?確かにそう呼んだ頃もあったが、今もそう言っていいのだろうか。
「子供の頃とは違う。お前と俺では立場が違いすぎる」
「立場ってなんだよ。同じ学院に通ってる同級生だ。それじゃあ、ダメなのか?」
「校内じゃ真面に口もきけないのにか!今だってここで会話しているだけでも危険なんだぞ」
青年のひっ迫した叫びが風に溶けていった。
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