第48話

「あら、そんな事言っていいのかしら?」

 やはり、ここで声を発したのはマミだった。


今度は何を言い出す気だ?


「私、先生の弱点知ってるんだけどな…」

ねこなで声で教師にすり寄るマミ。

メルはその様子を軽蔑するように睨んでいた。


恐ろしい…。


彼女なら大半の人の弱みを握っていそうだ。

「なっ!私を脅迫する気か…」

教師は明らかに同様していた。

実に面白い光景だ。

「まさか。公平に指導してほしいだけですよ。私達の言い分も聞いて貰わなきゃフェアとは言えませんわ」

マミは教師の頬にフッと息と吹きかける。

教師は驚きのあまり、後ろにのけぞる。

少しあの中年男性を可哀そうにすら思ってくる。

「そうだ。先にちょっかいをかけてきたのは彼らの方だ!」

反抗の言葉を口にしたのはカインだった。

「なっ何?彼らは優秀な生徒だぞ。そんな野蛮な事するわけないだろう」

教師は狼狽しながら反論する。

「そうです。ヒドイ話です」

今度はメル言った。

それに同意の意味を込めてか、セオは頷いていた。

ソールはと言えば、この状況に困惑していた。


全く、やるなら最後まで責任を持ってくれよ!


「とにかく話なら後で聞く。正規学生の諸君は教室に戻りなさい!」

教師はサラリと言った。

その場にいた半分の生徒はその発言に反感を持っただろう。

暴動が起きてもおかしくはない。


「お待ちなさい!」

その場に凛とした美しい音が流れてきた。

「彼らの言い分は正しいですわ」

ツカツカと歩いてきたのは公爵令嬢だった。

「これはアリサ様。ご機嫌麗しゅう…」

教師は緊張した面持ちで会釈した。

「これはどういう事です?生徒を導くはずの先生が偏った思想の元に判断を下すなど…」

「いっいえ…私はきちんと話を聞いた上で…」

「そっそうです。公爵令嬢。彼らがケンカを吹っ掛けてきたので、ソールが相手をしたまでで…」

 こんな時でも口八丁に言葉を紡げるベナルに呆れた。アリサは彼に興味ないのか、ソールに向き直る。そして、

「本当ですか?」と聞き返す。

「ええ。ですが、少し語弊あります。私達は彼らと剣の手合わせをしていたのです」

「あら、そうですの。では、問題にする道理はありませわね」」

アリサはソールの言葉が嘘であるのを分かっている様子だった。


それもそのはずだ。事の成り行きは塔の上から見ていたのだから。それでも、事を荒げないのはヒロの身に危険が及ぶ可能性が高いからだ。

そんな彼女の心情を当の本人は知る由もないが…。

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