第46話
ソールは力の限り、剣を振り上げ、ヒロめがけて、おろす。
その瞬間、場外で戦いを見守っていたエリート達は歓声を上げた。
これで勝負は決まったと思ったのだろう。
だが、そうはいかなかった。焼き尽くされてもおかしくない炎を浴びながら、ヒロは剣を受け止めていた。その銀に輝く先には冷たく透き通る氷が張り巡らされている。
「何!」
戦っている本人たちよりも学生会会長の方が驚いていた。
エリカの場所からはその言葉までは伝わってこないが、何を思っているのは一目瞭然だった。
呆気に取られている。格下だと思っている後期入学生にまさか、仲間がおされるとは思ってもいなかったのだ。
どこまでも無知でバカな連中だわ。
マギアの神秘を享受できるのはスフィル人の体内に備わる特殊器官アニマがあるゆえだ。
心臓のそばにあるこの器官がマギアに反応することによって人々は神にも等しい力を手にしたのだ。それは転生者、およびその血をひく転生系だって同じだ。
ヒロの中指で主張する立派なリング。
つくりからしてかなり古い。
まるで拷問具のように指の付け根に食い込む鋼。それがマギアを発動せているのだ。
炎と氷の対決か…。
相性がいいのか悪いのか微妙な所ね。
エリカの思いとは裏腹に、周りの感心は転生系がなぜマギアメントを持っているかという点だろう。実に滑稽な顔を浮かべている。
大体の人間が薄汚い転生系が作りのよいマギアメントを持っているとは思わないからだろう。
それこそ、偏見だろうに…。
エリカはますます興奮していた。
どうしてこうも戦いとなると胸が躍るのか分からない。だが、彼らの周囲に集まった学生達も同じ心持ちのようだ。
大体はソールを応援するもののようだ。
全く彼の人気は恐ろしい。
それでもエリカは少しばかりの疑問を抱いていた。
ソールという青年は人当たりがいい。そのためにこんな悪目立ちするような行動はしない印象を受けていた。それが、今はどうだ。
積極的に転生系にケンカを売る形をとっている。
何を思っての行動なのか理解できない。
だからこそ、楽しめるのだ。
なぜなら当事者ではないから。
応援団は皆、学院一のモテ男を応援している。そんな中で感情の読めないお嬢様の想い人を応援したくなった。
もちろん、少しだが…。
そういえば、隣で観察しているはずのお嬢様は大人しい。愛おしい人の有志に声もでないのかと微笑ましく思っていた。
ところが双眼鏡から目を離すと…。
「えっ!お嬢様⁉」
辺りを見渡しても主の姿はなかった。
「いない?」
誰もいない屋根裏部屋にエリカの声が静かに漏らされるだけであった。
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