第43話

「会長、彼らが盗んだというのは早急すぎますよ」

会長よろしくといったように列をなす末端から声が聞こえる。

「ソール…」

ヒロはうつ伏せのままだった。唐突前に進み出た成績トップの完璧男の名前を呟くも、誰も気にも留めなかった。

「おや、なら学院に保管されている貴重な品を盗むような不届きものが他にいるというのかい?」

「いえ、部外者の可能性も視野に入れるべきだと言いたいまでです」

「学院の警備は厳重だよ。それこそ司法機関にひけをとらない。残念だけどね」

と話に割って入ったのはセオであった。

思わぬ援軍とばかりにベナルは勢いづく。


「ほら、やはりお前らしか犯人はいない!」

さあ、早く白状しろとばかりにヒロのブラウスの襟をつかむベナル。

「身に覚えのない事で告白はできない」

ときっぱり断言するヒロ。見据えたベナルの瞳がゆらゆらと小刻みに動くのに気づいた。

動揺しているようだ。

「クソっ!反抗的だな。正常なるスフィル人に手をあげるとは…学生会会長として見過ごせない」」


ただの八つ当たりだ!


「学院の施設を勝手につかった事に対する罰も必要だな」とベナルは続ける。


いやいや、それこそ言いがかりだ。なぜ、学院の生徒として認められているにも関わらず施設利用を許されていないのだ。多目的スペースにしろ、図書館にしろ、姿を見せれば即、正学生に追い出されてしまう。


『もちろん学生手帳に使うな』という文面は一切ないし、校則にもない。

利用は許されている。だが、一般のスフィル人は転生者に連なる者と息をするのも嫌だと語るのが大半だ。故に肩身が狭い。それでも学院に通いたがる転生系が多いのは貧困からの脱出への近道だからだ。それ以外なら大抵、危険な仕事か、違法な手段で稼ぐしかない。何より卒業生は限定的ではあるが市民権を手に入れることが出来るのが大きい。

だからどれほど不遇な扱いをされてもやめる者はいないのだ。

しかし、そうは言っても単位は取らなければならない。

その中には剣術も含まれる。だが、ローランドの法律では反乱の目をつぶすため、転生系の武器保持は許されていない。しかし、ハルモニア学院では敷地内に限って、練習用の剣を持つことが許されている。そのため、転生系の生徒の多くは学院で自習を行うのだ。

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