第42話
ベナルはヒロを見下していた。
「お前、見た顔だな。そうだ。俺たちの大事なBBの決勝戦で騒ぎを起こした奴だな」
ベナルはそう言い、思いっきり力を込め、その足でヒロの背中を踏みつけた。
頭が、体の上部が整われた芝生の上に押し付けられる。
「騒ぎを起こしたのは乱入した異世界人よ!」
気だるそうにマミが言った。
またそんなケンカ売るような事を…とあきれ返る。
「一緒だよ。君達も同じ刑でもいいんじゃないかい?」
メルはマミを見上げ、言った。
「あら、可愛い顔して残酷ね」
とおでこがくっつきそうな勢いで言い返すマミ。
一連のやり取りを見て、快く思ったのか、ベナルはニヤリと笑った。
「ああ、そうだよな。本当にムカツクよ。俺たちより目立ちやがって!立場をわきまえろよ!」
十分わきまえているさ!これ以上何をすればこいつらは転生系を認めるんだ!
胸の中で気持ちの悪い感情が押し寄せてくる。
それでもヒロは反抗の意志がないのを演出して、額をこすりつけた。
隣をチラリと見やれば、カインは高笑いする青年にとびかかろうとしているのが分かった。その怒りの炎が肌を通り抜けたような気がする。
とっさにその手を掴む。お互い震えていた。寒いからではない。
ヒロはただ祈った。
ここは耐えるのだと。耐えてくれと…。
カインはそれを察したのか、項垂れるように頭を下げた。
その様子におそらく後ろにいる同級生達は「なんて惨めな姿だ」と悪態をついていそうだ。しかし、ヒロはそれでかまわないと思った。
暴力に巻き込まれるのはいつだって穏やかに過ごしたいと願っている奴らなのだ。
ここでヒロが手を出せば、その罰は他の準学生にも飛び火する。
願うのは、不遇な扱いの中でも真面目に勉学にいそしむ彼らの平穏な日常だ。
そのためならいくらだって頭を下げてやる!
「俺たちはあなた方の足元に及ばない野蛮な者だ。すぐにこの場所は譲る。だから、これ以上は…」
「全くその通りだな。学院に保管されていた落神を盗んだのもお前らじゃないのか?野蛮人の転生系が考えそうなことだよな。一体どこに隠したんだ?」
革靴で頭を蹴り上げられるヒロ。それでも真顔でやり過ごすヒロにベナルは気持ち悪さをにじませる。虚勢をはるように、厭味ったらしく、演劇チックに言葉を口にする。
それに同意して、彼の取り巻きの男子学生達が下品に笑った。
全く教養ある人々とは思えない言動だ。
チラリとベナルを見やれば、奴の視線は古城にいくつも作られた小窓の一つに向けられていた。そこには広場のやり取りを見物しているこの学院を仕切っている公爵令嬢の姿があった。
彼は満足そうに微笑んでいた。なるほど、学院の代表すべき模範学生もこの件を容認しているというわけか。どこまでも腐っている!
無意識のうちに整われた芝生を握りしめていた。垂れ下がった前歯の下でベナルに鋭い敵意を放っていた。後数秒もすれば、もしかしたら我を忘れていたかもしれない。
だが、そうはならなかった。
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