第41話
午後をつげる鐘が鳴り響いて数十分以上は立っただろう。
後しばらくは剣の鍛錬が出来ると思っていたのに平穏は予想通りに崩れ去った。
慌てた様子で走ってくる同級生の少女の発した、
「大変、正規学生がやってくる!」
その一言で場は凍りついた。
ついさっきまでダラけていた同級生達は血相を変えて飛び起き、後片付けを始める。
そんな彼らとは対照的にヒロはあぐらをかき、冷静に状況を見ていた。
同級生達は慌てすぎてそんなヒロの様子に気づかない。
可愛い姿には似つかわしくない歪んだ表情を見せながら歩いてくるメルとその取り巻き達を視界にとらえる。
直立不動で動かない同級生達を後目にマミは立ち上がり、彼らに向かって頭を下げる。
「申し訳ありません。まさか正学生の方々がいらっしゃるとは知らず、広場を使わせてもらいました」
顔色を変えないメル。
不適に笑うマミはどこか楽しんでいるようだった。
メルよりも幾分か高い背のせいで見下したような姿勢になる。
メルは大げさに不快感をあらわにした。
そこに割って入ったのはカインだ。
「ご勘弁を…」
カインは申し訳なさそうに頭を下げた。
それが気に食わなかったのか、メルは短剣の鞘部分を使ってカインの頬を殴り倒す。
「僕がしゃべっているんだ!頭が高いぞ!」
皮膚から血が流れていくのを見ながら正常心を保っていた。
背後で仲間達が唇をかみしめているのが見て取られた。現れた彼らに怒りを向けている者が大半だが、決して言い返さない。
それが懸命な判断だ。
ヒロはほぼ無意識のままに、カインの肩を抱きかかえた。
その視線はメルに向かっており、ただ見上げていた。
彼は恐怖感に駆られたように、顔をそむけた。
どうやら、意識しないうちに殺意を向けていたようだ。
「おっ!やってるな!」
陽気な声がその場に響いた。
まるでお茶会にでも来たような笑顔で歩いてきたのは現学生会会長のベナルと彼のお気に入りたちだ。
彼は学院の歴代学生会会長の中でも有能とされる会長の一人だ。
そしてBB部を率いる部長という二足のわらじを履いている。
だが、彼は誰が見ても差別主義者だった。
定期的に後期入学組にちょっかいをかけてくるのだ。
ほっといてくれればいいのにとヒロは思った。
少しばかりの教養を身に着けるためだけに、転生系は侮られるのかと思うと嫌気が指す。それでも、多くの転生系はこの限られた教育機関への進学を目指すのだ。
その理由は、少しでもいい仕事、いい暮らしが出来るという幻想を抱くからだ。
しかし、ヒロは知っている。
そんな事、夢幻でしかないと…。
それでも、ヒロには今ここでキレるだけの勇気はない。
例え地獄だったとしてもその中の一筋の希望を求めているからである。
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