第37話

 転生者はスフィル人から生まれる。あくまでよそ者の異世界人とは異なり、命を奪おうとする者は少なかった。それでも差別は横行している。特にその矛先は転生者と契りを結んだ者、そしてその血を受けて誕生した生命に向けられた。隔離治療施設への移送を拒み逃げた者も多く、その数は増やしている。ローズメリィ帝国では対策として転生者の流れを組む転生系の人々が住む地区を各地に作った。


健全なスフィル人と極力接点を持たないように――


「ミンスルに住む転生系はまだマシじゃないですか?他の地区では苦しい労働に課せられているとききます。それに比べれば教育だってきちんと受けられるんです。天国では?」

「一部の優秀な子達だけでしょう。この学院だって転生系は後期からしか入学できないし…」


まさか、そんな言葉がアリサから出た事が驚きでならない。一か月前なら転生系を視界に入れたところで無視だったのに。意外と人は変わるものなのね。


 ハルモニア学院に通う生徒のうち、半分以上は前期入学である。そしてそのすべてはごく普通のスフィル人である。一方、後期入学は最難関の試験を突破した優秀な学生だが、家族に転生者を出した子供達である。両者の間には決して相いれない隔たりが存在していた。


「この入学制度だって実現するのは大変だったと聞いています。ただでさえ保守層だらけの保護者で占められているんです。いくら領主と言えど苦労されたと思いますよ。お父様は…」

心底感心そうにするエリカ。


純粋で正常なスフィル人の社会を目指す現種惑星人主義と敵対する思想を掲げているのが反長主を掲げる惑星解放闘志派と呼ばれる人々だ。

国の改革を望む彼らの大半はスフィル人であるが、戦力として圧制に苦しめられる転生系の人々も囲い込んでいるときく。各地でのデモや小規模ではあるが反乱、それに関連した略奪も横行しており、社会問題化している。ミンスルでもその対策が急務となっていた。


「どうせあの人の事だから惑星解放闘志派の動きを止めたいだけよ。根本的な解決にはならないわ」


唇をギュッとかみしめて、父親への複雑な感情を処理しようとするアリサに気づき、視線を逸らす。どこの家族もいろいろあるものね。

公爵という高い身分の彼らも例外ではないようだ。

エリカはばつが悪そうにその肩を優しく叩こうとした。

だが、青空の向こうから、


「お―!―――――――――――!


雑音が耳に入ってくる。


「なんだか、外が騒がしいですね」


二人は何事かと窓際に立った。

双眼鏡の先に映ったのは、ヒロ様ご一行とソール率いるエリート様方が向かい合っていた。

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