第36話

エリカはゆったりとほほ笑んだ。

「まあ、彼は引く手あまたでしょうしね。女性には困らなさそうです」

優男を思い浮かべたせいか、頬が緩む。

「まさか、エリカもソールと…」

顔色がみるみる悪くなり、口を押えてワナワナ震えるアリサ。

何を想像しているのか手に取るようにわかる。

エリカは思わず噴き出した。

「もう、お嬢様はどんな破廉恥な想像を?」

「なっ!何よ」

沸騰したように真っ赤な色に染まるアリサ。

「私、ソール様とは特に接点ありませんよ」

「なんだ。からかわないでよ」

アリサはホッとしたように息をつく。

「けれど、真面目な話ですよ。愛しの君…ヒロ様が何者か分かっているでしょう?正真正銘のスフィル人であるお嬢様とはけして結ばれる事はない!」

と強い口調で言えば、

「だから、声もかけられずに遠目で眺めてるじゃない!」とアリサは叫んだ。

「だからそれをストーカーというんです!」

否定を込めて右手をパタパタと振るエリカ。

眼差しに光はない。

「もう、そこは容認してよ」

アリサはガクリと座り込んだ。

「分かってるわよ。無理だって。でも好きなんだもん!それに、ヒロ様達には転生症候群の症状は出ていないんでしょ?それなのにどうして普通のスフィル人との婚姻が認められていないの!」

怒りをぶつけるような、そして悲痛な面持ちで拳をつくるアリサにエリカは何も言えない。


そももそも、結婚より前にお嬢様が彼に認識されているのかも怪しいのでは?とすら思う。


「転生者になる要因は分かっていないんです。遺伝性かもしれないし、感染の可能性も示唆されている…」

「何言ってるのよ!今あげた可能性は随分前に否定されたじゃない。転生者は病人ではないって!人にうつる心配はないんだって…」

「その報告に意を唱えている人は多いですし、何より絶対なんてありえないんですよ。一%の不安が残る限り、人は排除したがるものなんです」

不満を募らせるアリサはしばし押し黙る。

エリカに対して何か言いたそうだ。

「たまに貴方の冷静さに腹が立つわ…」

アリサはぽつりと言った。エリカは立ち上がり、ソファーに座り直した。

「今に始まった事ではないでしょう」

「だっておかしいじゃない。転生者は治療施設に入れられるのはまだわかるわ。けれど、その家族まで不遇な扱いを受けるのは気の毒すぎるわ…」


うわ~そうくるか…。


エリカはお嬢様の得体のしれない嫌悪感を抱いた。

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