第35話
エリカの双眼鏡はアリサが使用する物よりも小型のそれは持ち運びに便利だ。
覗いたレンズの先に映るのは整った顔…。
先日、盛大に氷のショーを展開した青年だ。
細身だが、鍛え上げられた肉体は同世代の男の子よりも精悍な印象を与える。
「額をぬぐう姿も素敵だわ」と早口になるアリサ。
彼女に付き合わされて森林近くで鍛錬をする彼を幾度となく見てきた。
だが常に眉間にしわを寄せている男子生徒ぐらいの感想しかエリカには持ち合わせていない。不愛想も甚だしい。
いつもと違うのは彼の友人達の姿もある事ぐらいだ。
値踏みでもするようにヒロを一瞥した。
年齢は私達と同じぐらいだろうなとエリカは記憶を手繰った。
それでも関心を持てるのは眼光の鋭い紫の瞳ぐらいだろう。
あれが宝石なら高値で売れるのにと不穏な事を夢見心地な主に言ったらそれこそ解雇されそうだ。
エリカは興味を無くしたのか窓際から離れ、元居た場所へと移動する。
その間もアリサは遠い地上を見つめていた。
「彼の何がいいんです?」
エリカは何げなく問いかけた。
「すべてよ」
それはもう満面の笑顔で即答するアリサであった。
エリカは今日何度目かの落胆の声を上げた。
「お嬢様にはあっちの方がいいのでは?」
「あっちって?」
「オレンジ髪の貴公子です」
エリカはまっすぐな目でアリサを見据えていた。
「まさか、ソールの事?もうどうして皆して同じこというわけ?」
アリサはみるみるうちに機嫌が悪くなる。
ありえないとばかりに憤慨して、あたりを歩き回る。
「そりゃあ、誰だって思いますよ」
「ホントにやめてよね。他の子に言われるならまだいいけど、エリカにはそれ以上言われたくない!」
「申し訳ありません。口が過ぎました」
深々と頭を下げるエリカ。
お嬢様は純粋な方だからのせられたけど、
私はただのメイド。ご機嫌を損ねるわけにはいかないわ…
エリカは自分に言いかせる。
「そんな深刻そうに謝らないでよ」
アリサはメイドの落胆した仕草に肩をすくめた。
エリカはとある男子学生を思い出していた。
太陽のような明るい髪に青い目。
軽やかに人々の間を抜けていくような柔和なオーラが見えそうな好青年。
さらには女性が喜びそうな言葉をスラスラと口にする。
エリカはソール・デヴィロをそう記憶していた。
さらに入学してから4年間、首席の座を明け渡していない。
おまけに剣の腕もピカイチで、将来は落神退治を専門に行うブレイヴ志望と来ている。並みの女性ならひとたまりもないだろう。
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