第34話

 この星で“異世界人”の話をするのはデリケートな事だ。

多くのスフィル人による非人道的な行いを思えば当然のことだろう。

スフィルにある多くの国々は“彼ら”を異端の者として敵意を向けている。

ローズメリィ帝国でも同様であり、数百年前に大規模粛清によりその数を減らした事はよく知られている。

とはいえ現在でもその流れを組む者はかなりの数がいると推測されている。


「私は学院に合法的に保管されている書物を読んでいるだけです。非難される覚えはありません。それにお嬢様だって転生者が書いたロマンス小説、隠し持ってるでしょう?」

「なぜそれを⁉」

「分かります。お嬢様の部屋の掃除をやっているのは誰だと思ってるんです?」

恥ずかしそうに体を縮こませるアリサ。今度はエリカが形勢逆転した。

「彼らはスフィル人でしょ。よそ者の異世界人とは違うわ」

とか細い声でつぶやくアリサ。

「そんな事言って、現種惑星人主義に聞かれたら殺されてしまいますよ。奴らは転生者に寛容な人々にも容赦がないんですから」

「スフィル人純血をうたう連中ね。恥知らずもいいところだわ」

嫌悪感を露わにするアリサ。

エリカは沈黙した。そして思った。お嬢様のように転生者を人として扱うべきだという意見の方が少数派であるという事を…


突然、キンッ!という音が響く。


アリサは慌てたように窓の縁に飛びついた。

「落ち着いてください」とあきれたように言葉をつむぐエリカ。

どうやら、愛しの君が剣の鍛錬を始めたようだ。

アリサは食い入るように身を乗り出した。


どれだけ待ち焦がれていたの?


とアリサの興奮度に呆気にとられる。

頬を赤く染めた主を眺める。鼻息は非常に荒い。

「やっとお姿を捉えられたわ。よかった。外れ日かとさえ思った…」

「珍獣みたいな扱いやめてあげてくださいよ。なんだか彼が不憫だわ」

ガッツポーズすらするアリサに正直ひいてしまう。

これが恋する乙女だといったら世の中の少女達は同意するんだろうか。

エリカには分からない。

「見て、熱心に素振りをしてらっしゃるわ。森林の中に佇むヒロ様。絵になるわ」

うっとりとするアリサ。エリカはポケットから双眼鏡を取り出す。

その先に見えたのは…。

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