第33話

「なっなんです?」とエリカは不審げに問いかける。

「最近、エリカと距離が近くなったなって思って…」

「はい?」

意味がわからない。首を傾げるだけである。

「だって、いくら敬語じゃなくて良いって言ってるのに聞いてくれないし…」

「当たり前です。貴方は私の雇い主なんですよ」

「そうは言ってもずっと一緒にいるじゃない。私はエリカを友人…家族みたいに思ってるのに…」

「なっ!まだ5年だけです」

思わず声がうわずる。どうしてこの人はこうも心を乱すようなことを言うのか。

愛情に飢えた者には効果的すぎる。やめてほしい。


「5年というのは結構な年数じゃないの?」

首を傾げるアリサ。

「最近のお嬢様の体たらくにあきれているだけです」

そう言い返してもアリサはますます機嫌がよくなるだけであった。


一体なんだっていうのよ!


「わっ私に気をそらしていいんですか?愛しの君の有志を見てください」

とエリカは気を紛らわせるためにページをめくるスピードを速めた。


「だってまだ来ないんだもん。変ね。いつもこの時間に来るのに…」

「心配なら下に降りて探しに行けばいいのでは?」

「ええ~恥ずかしい」

頬に手を添えてクネクネと体を揺らすアリサ。ちょっと気持ち悪い。


ああ、本当に美しいお嬢様はどこに行ってしまったのか。


「で、何読んでるの?」

急に話題を変えてきたなとエリカは思った。

「ああ、これですか?よくあるミステリー小説ですよ」

アリサによく見えるように表紙を近づける。

「『田舎町殺し』?」

アリサは身を乗り出して本に書かれたタイトルを読み上げる。

「それって異世界人が持ち込んだ本じゃない?」と神妙な面持ちで言うアリサ。

「そのようですね」

平然とした様子で答えるエリカ。

「その手の本、学院の図書館に置いてあるの?」

「ええ、あるからこうして私の元に…」

「意外だわ」

「おそらくですけど、文化調査のために彼らから奪った物の一つじゃないでしょうか。随分古いものですし」

「だからってエリカが読んでるのが不思議なの。だって異世界人のせいで…」

それ以上の言葉を飲み込んだのか強く唇を閉じるアリサだった。

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