第31話

 昼食限定ハンバーグを求めて走り去る数名の下級生を視界にとらえながら一歩づつ登っていく。白色で装飾された廊下は清潔感が漂っている。

学院のほとんどがそうだ。

だが、最上階に近づくにつれ、土っぽさが鼻をかすめる。

何段にも連なった階段の先にはもう何年も使われていない部屋がある。

もはや屋根裏部屋という言葉が似合う小さなその空間は戦があった頃は隠し部屋として使われていた。その頃の暗い歴史など興味がなさそうな少女がここを私物化して4年目を迎えていた。


エリカは重たい扉を開けた。

中には予想通り、窓辺に腰かけ外を眺めている主がいた。

「また懲りずにのぞきですか?」

あきれた様子で言っても、アリサは双眼鏡から目を離さなない。

脱いだ革靴は同色の床の上に無造作に転がっている。およそ育ちの良い子女がやるとは思えないほど、スカートはめくれ上がり、生足を放り抱いている。さらに、はだけた薄手のブラウスの下からは胸元がのぞいている。それでいて艶のある銀色の長い髪は風をなびき、一枚の絵を切り取ったような美しさが漂っていた。

透き通るような青い瞳が外を射抜いていた。

 

何をやってもキマる人はいるんだなとぼんやりと思った。

それでもエリカの知る凛としたお嬢様はどこにもいない…。


思わず溜息が漏れる。

「大変だったわね。落神のミイラ紛失ですって?」

未だ、双眼鏡の奥を眺めるアリサ。

「ミイラ?まあ、表現はなんとなくあってますけど…噂じゃあ、誰かに盗まれたのではないかという話です」


事件が明るみになった今朝から教師陣は大慌てである。

それでも学生の間にはいつもと変わらない日常が続いていた。

発見者であるエリカ自身も含めて…。


「学院側はあまり大きな問題にしたくないでしょうし、うやむやになるかもね」

アリサは興味なさげに言う。

「やっぱりそうなります?」

「当然でしょう。ここは名門でうってるんだもの。保管されていた落神っていうのが本当にあったのかも怪しいわね。何百年も開けられてなかったんでしょう?」


なんて能天気な話なの!


エリカは思わず舌打ちをかます勢いだった。

それでもし落神が息でも吹き返したら大変な騒ぎだ。

そんな事になったらどうせ適当な奴に罪を擦り付ければいいと思ってるんだわ。


本当に嫌な国だ。窓ガラスに映った卑しい自身の姿にドキッとする。

すぐさま、笑顔を取り繕う。幸い、主は気づいていなかった。

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