第29話
エリカが何歩目かの足を踏み出した時、
「あの、先輩」
背中からオドオドした少年の声が聞こえた。
「国に張られた結界が揺らいでいるというのは本当だと思いますか?」
思わず、ピタッと歩くのを止めた。
「バカね。そんな事あるわけないじゃない」
今度は少女があきれたように言った。
「でも、最近落神の出現率高いんだろう。みんな言ってるよ。結界にガタが来てるんじゃないかって…」
「みんなって誰よ」と誰かが言う。
「親とか…」肩をすぼめる少年。
その発言に鼻で笑ったのは別の男の子だ。
「そもそも建物じゃあるまいし結界が老朽化するのか」とも言った。
「大体ね。ミンスルじゃあ、結界が張られた後も落神は出現してるのよ。これだから都出は困るわ」
少女は他の地方の者、特に都から来た者に対して嫌味として使う言葉を口にした。
エリカは振り返る。
反論され続けた少年は肩を落としていた。
「大丈夫よ。そもそもミンスルは昔から落神の出現率が高いの。それは結界が張られた後も同じよ。それはなぜだか分かる?」
「えっと確か…暗闇の森の一部が結界内に入っているからです」
列の後ろの方から声が聞こえる。
「ありがとう」
エリカはお礼を言った。彼らに語る言葉が敬語でなくなっている事に気づかない。
「どうして、暗闇の森全体を結界外に出さなかったんだ?」
当然の疑問を漏らす下級生。
「現在の大陸の地図ではミンスルの横に記されてる事の多い暗闇の森だけど、本来は北にそびえる山脈の向こうにも広がってるの」
「えっ!それってつまり大陸に覆いかぶさるように暗闇の森があるってこと?」
驚いたような様子の少女。
「ええ。偉大なる方は都を中心に結界を張り巡らせたの。要は遠く離れたミンスルまで伸ばすには精密さには欠けたって事ね。その証拠に500年以上、首都であるエスルドでの落神出現は確認されていない…」
なぜなら、結界の強度は国の中枢へ向かうほど強くなる仕様だからである。
「けれど、心配しないで。結界内に入り込んでいる暗闇の森に住む落神はどれも下級の物よ。何よりミンスルにはブレイヴが常駐しているし…」
ブレイヴという単語にホッとした表情を浮かべる少年。
それは他の下級生も同じであった。
落神を狩る専門職業。それがブレイヴだ。その資格認定試験は難関を極め、職務も危険を伴うが志願者が後を絶たない。その理由は名の通り勇者を意味するからだ。彼らはローズメリィでは英雄として語られる。誰が見ても国、人々に貢献している者と認識されるからだ。何より給料が格段に良い。
ミンスルには土地柄もあるが、その育成訓練校も多く他の地域よりも身近な人々である。ハルモニア学院もブレイブ指定機関に属しており、卒業生には高名なブレイブも数多く輩出している事はよく知られていた。
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