第28話
数年ぶりの優勝を果たしたハルモニア学院内は数日たった今もお祭り騒ぎだ。
転移間もない異世界人が乱入し、なおかつ処刑された場に居合わせた者も多いのに誰も口にしない。ただ、今日も日常が過ぎていく。
少なくともエリカの関心は走り去っていったあの小柄な少年に向いていた。
確か、先祖代々軍事家系の名門の出だ。
名誉あるBBのレギュラーになり、一族は皆誇りに思っているはずだ。
だから、この別棟の裏から出現した事に驚いた。
この建物の裏は教師はあまり寄り付かない。
故に秘密を持つ学生達の憩いの場となっているのだ。
大抵は一服する連中で占められている。
何を吸うかはあえて言わない。どっちにしろロクな代物ではないだろう。
さらに彼らは非常に用心深い。
校内に張り巡らされた抜け道を通って出入りしている。
そう思うと、あの少年は間が抜けている。
事情を知る人間に見つかれば、不良学生認定されるというのに。
よほど急いでいたらしい。
「へえ~。可愛い顔してるのに意外…」
エリカはボソッと独り言のつもりで声を出した。
もてはやされているエリート学生の裏の顔を目撃したようで楽しい。
謎に自尊心を刺激する。
しかし、こちらを不思議そうに見上げる下級生の視線に気づき、ハッとしてエリカは人懐っこい笑顔でそれに答えた。
そして右横でその存在を主張する壁画に視線を移す。
巨大なメガロ大陸とその周辺地図が描かれている。
東に記されたミンスルの文字。
西を見れば遠く離れたエスルド地方を確認できる。
現長主が住まう都の置かれる地だ。
それから大陸の周りを囲む海。北には雪で覆われた山脈が広がっている。
今のローズメリィ帝国が縮図が記されていた。
それはミンスルよりさらに東が黒く塗りつぶされている事にも言える。
エリカは再び自分より背の低い少年少女に向き直った。
「偉大なる方、ラインベルト長主様の最大の功績の一つは国の周りに結界を張られた事です。その理由は…」
「暗闇の森に住まう
真面目そうな少女が会話を遮るように答えた。
「そうです」
エリカは黒で表現された壁画部分を指さした。
「ミンスルと隣接する暗闇の森は息とし生ける者のいない樹海です。そこに住まうのが異凶の怪物、落神だけです。奴らは太古より人々を襲い、苦しめてきました。それに心を痛めた偉大なる方は自身の生命力を使い国全体に結界を張られたのです。今、私達が安全に暮らせるのはその加護があるためです」
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