事件発生

第26話

 賑わいを見せるミンセン州都の中にあっても、町の中心部を外れると草木が生い茂る自然豊かな光景が広がる。

特にハルモニア高等学院には森の中を通って行くしかない。

鳥のさえずりを聞きながらたどり着いた先にそびえる古城。

何世紀か前に帝国の支配者から当時の領主に譲られた歴史的建造物は若者の学び舎へと変わってから数年が立つ。


 この学院に集うのは例外はあるが主に12歳から18歳前後の少年少女達である。

文武両道を掲げ、国の中枢を担う政治家や行政執行官、または治安維持を担う憲兵隊など優秀な卒業生を輩出している。

それ故、生徒の半分は裕福な者で占められている。

彼らに最高の教育を施すために城内部は食堂や寮、スポーツ施設が完備され生徒同士の憩いの場としてサロンも複数用意されているまさに理想の教育機関である。


「メガロ大陸にはかつて多くの国がありました。王たちは大陸の覇権をかけて戦争を繰り返しました。学院の校舎として使われているここ、ブルーラン城も要塞として使用されました。今でもその痕跡を確認することができます」

エリカは丁寧に説明しながら、古い壁を指さした。

その動きに合わせるように、多数の目がそれに注がれる。

塗料が外れ、むき出しの土部分には砲弾によってつけられた穴が見える。

「その戦いを制し、大陸に平安をもたらしたのが我が国ローズメリィ帝国です」

再び、前を向いたエリカは並んだ調度品の間を通り抜けてゆく。

それに続くように無数の足の列が続く。


 城の中心部から離れた二本の塔に守られた別棟。

かつて王の私生活の一部だった場所は資料館として開放されている。

集められているのは大砲や銃、剣など過去の遺物。また歴代の兵士や勇者達の写真や武具も含まれている。さらには絵画や彫刻などの芸術品など、数多くの品が保管されている。そのため、一年中、専門家が出入りしている。

もはやそれなりに立派な博物館や美術館と表現した方が正しいだろう。

とはいえ展示品のほとんどはキリュシュ家の持ち物であり、教育の一環として学院に貸し出しているのはあまり知られていない。


 そんな歴史の風を感じられる場所に集められたのは入学間もない一年生達だ。

こげ茶色のブカブカのベストが初々しい。

あと、何か月か過ごせば体に馴染むだろう。


「ローズメリィの建国は今から547年前であるのは皆さんもよくご存じですね」

エリカの優し気な眼差しに健気な顔を向ける少年少女達は頷いた。

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